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ノマドランドのFilmojaのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.5
「スリー・ビルボード」での鮮烈なインパクトが記憶に新しい、フランシス・マクドーマンドの情感あふれる演技が胸に迫るロードムービー。

米西部の茫漠たる砂漠、荒涼とした大地、美しくも圧倒される夕景。
厳しい冬の寒さ、夏の暖かな陽光。
スクリーンを彩る、うつろう季節の素晴らしさ。
夫を亡くし、職を失い、棄て去られた街を後に、ノマドとなった女性の様々な人間ドラマ。
経済格差の歪みから抜け出し、あえて遊牧民のようにDIYで車上生活する高齢者たち。

一見、社会から取り残され、心の傷を抱えながら生きる彼女らも、自らのスキルによって工夫を繰り返しながら、たくましく暮らす様子が鮮やかに描かれ、過剰な悲愴感を排したドキュメンタリー仕立てに、実在するありのままのノマド生活者たちを見せる手法は、人によっては退屈に思えるかも知れない。

けれども、そんなノマド高齢者たちを肯定も否定もせず、それぞれの心情に寄りそうように映し出すクロエ・ジャオ監督の目線は限りなくフラットだ。過剰に美化するのでも、かといって貶めるのでもない。何かを訴えるのでも、何かを批判するのでもない。映像を通して、リアルであるがままの現実の厳しさと優しさが伝わってくる。

アメリカ伝統の開拓者精神でもって、自らの人生を切り拓こうとするタフな人間たちの、哀しみと慈しみに満ちた眼差し。
あるいは、自由な生活の代償としてハードワークをこなさざるを得ない肉体労働者としてのやるせなさ。
amazonの出荷倉庫がコーポラティズムの象徴として描かれ、大多数の労働者と、ひと握りの成功者の逆転しがたい現実を対比する。

私たちも含めた生き方そのものの価値観を問われるようなエピソードが重ねられ、飾らない言葉と、出合いと別れを繰り返す放浪者たちを雄大な大自然が包みこむユートピア。
同時に“自由の国アメリカ”の貧困を掬いあげ、隣人を愛し、お互いに支えあう姿を描いた本作の圧倒的なリアリティーは、同時に家族や友人たちのつながりによる救いをも描くことで、ささやかな幸福への希望も示す。

時間を無駄にするな。人生を支配されるな。
経済社会のシステムに抗い、自ら能動的に人生を“生きる”ことを選んだノマドの人々。
ホームはいつも心の中にある。
忘れがたい思い出、忘れがたい場所。
さよならは言わない。いつかまた、路上で会う日まで。
アメリカ土着の人々が奏でるカントリーやブルーズが深く沁み入り、終わりなき旅のような人生の機微に触れ、心が浄化されるような感覚をおぼえる感動作。
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