アラサーちゃん

ノマドランドのアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.0
出会いと別れの尊さ。

車内で寝食し、老体に鞭打って労働する。季節が変われば車と共に住処を探し旅に出る。「ノマド」と呼ばれる彼らの生き方を、雄大な自然の映像のなかで丁寧に描く。とても儚く、美しく、そして尊い映画だった。

作中で描かれた「ノマド」のほとんどは高齢者だ。社会という正しい世界のなかからはみ出た変わり者のジジババのような顔をして、それでも彼らの心は誰よりも繊細で純粋に光り続けている。
彼らは、生きる意味を求めさまようというよりも、それぞれが背負ってきた「過去」という分身をしたがえた終わりのない旅というように見えた。その旅は、途方もなく孤独で、厳しい。彼らが胸に秘めた、分身への思いが強ければ強いほど。

白く光る髪の一本一本に、深く刻まれた皺のひとつひとつに、彼らの「過去」が浮かび上がってくる。それは焚火を囲みながら仲間と語らうとき。暗闇のなかでひとり孤独に寒い夜をやり過ごすとき。誰かと出会うとき。そして、誰かと別れるとき。


原作に感銘を受け、映画化権を購入していたマクドーマンドが、クロエ・ジャオ監督の作品に惚れ込んで製作を依頼したという「ノマドランド」。
マクドーマンドの、この作品に対する強い思い入れが感じられるが、映画を観ながらふとどこかで、「スクリーンのなかにいるのは『ファーン』というキャラクターではなく名声も肩書も捨てたフランシス・マクドーマンドそのもので、彼女が体験入部するような感覚でノマド生活を経験しながら、彼らの生身の声をインタビューしているのではないか」という錯覚を起こさせた。それほどリアルな艶感のある映画だった。
また、自然の景観があまりにも優美なので、台湾とか韓国とか、アジアらしい映像が映えるなと思っていたら、やっぱり中国人の女性監督だった。

退屈になるかな、と若干危惧していたけれど、まったく心配なかった。映画がはじまって一分で引き込まれた。ラストシーンでマクドーマンドがはけていくまで、ずっと。