季節労働をしながら車上生活をする人々=“ノマド(遊牧民)”の生き方を描く。
実際のノマドの人々が多く出演しており、ドキュメンタリーのように静かに、淡々と物語は進む。
美しい自然と対比するように苦しい現実も映しだす。
しかし、彼らは貧しくてもその生き方に誇りを持っている。
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アメリカの格差社会を象徴するような社会派作品だけど、決して悲観的ではなく、しかし美化もせず、絶妙なバランスを保っているのが良い。
“幸せ”なんて人それぞれで、他人がノマドの生き方を憐れむのはおかしいのかもしれない。
むしろ自然とともに生きる彼らの方が豊かに感じる場面さえあった。
安定性のために仕事に追われ、時間に追われ、忙しなく生きることが豊かだと本当に言えるのだろうか。
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複雑に感じたのは、ノマド生活を「余儀なくされた」部分と、「自ら選んだ」部分、両方ある点。主人公は特にそうだ。
表面的には自由な生き方に見えるけど、圧倒的に不自由の方が多そうに感じたし、経済の影響が無ければ彼らもこの生き方は選ばなかったのかもしれない。
憐れむ必要は無いかもしれないが、無視できない問題だとも感じた。
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雄大な自然を映す映像美に感動し癒やされた。
あまりの美しさに、ノマドの生き方に少し憧れさえ抱いたけど、現実的に考えると私には絶対真似できない生活だな…衛生面が1番心配…(笑)
日本で車上生活をしている人は実際どれくらいいるのだろう…とふと考える。
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ノマドランドは、映像も音楽も美しいが、“言葉”も美しく、心に響く台詞が多くあった。
なかでもスワンキーのある台詞が印象に残っている。
「ああ、人ってそういう瞬間のために生きてるんだな」と深く共感して涙した。
俳優と勘違いしてしまったくらい、自然で素晴らしい演技だった。
もしかしたら、演技ではなく本心から出た言葉だったのかもしれない。
十年後、二十年後、今より人生経験を積んだあとで観るとまた違った見方ができそうな奥深い作品。