GreenT

ノマドランドのGreenTのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
3.0
ファンタジーとして、「ヴァンパイアが逃亡しながら生きていく生活にロマンを感じる」みたいなノリで観るなら面白い映画だなと思いました。

ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、ネバダ州エンパイアという街に住んでいたが、働いていた企業、USG Corporationが工場を閉鎖したため職を失う。同じ工場で働いていた夫も失業し、街自体が存在しないことになってしまう。その後夫が亡くなり1人になったファーンは、家財道具を売払い、改造したヴァンに住むことに決める。

これはマイケル・ムーアの『ロジャー&ミー』でも描かれていましたよね。あの頃は工場をメキシコなどの海外に移したので、その工場だけが仕事だったフリントという街はゴーストタウンのようになってしまった。しかしファーンの住んでいたエンパイアという街は、郵便番号を消されてしまう。

この後ファーンはアマゾンの配送センターで働いているんだけど、これはクリスマス前だけの季節労働。アメリカでは、デパートなんかもクリスマス商戦の間だけの仕事とかたくさんあるんだけど、アマゾンは特にCamperForce program っていうのを設けて、RVer、もしくはヴァンドゥエラー(vandweller:ヴァンに住む人)と呼ばれるヴァンやキャンピングカーでノマド生活している人を上手に使っている。

この配送センターの人たちはみんないい人で、ファーンも楽しそうに仕事をしている。ここの同僚のリンダ・メイに誘われて、ファーンはアリゾナで行われるヴァンドゥエラーの集会に行く。

このシーンは、本物のヴァンドゥエラーの集会に、フランシス・マクドーマンドが参加しているんだな、ってわかった。ここだけドキュメンタリーのようだったんだけど、多分アマゾンのシーンも本物のワーカーたちだったんだろうなって思った。

ファーンが会場を散歩する映像とか、リンダ・メイやスワンキーなど本物のヴァンドゥエラーとRVの品評会に行ったりするシーンで、この集会の雰囲気がよく分かる。それに、フランシス・マクドーマンドが素人さんたちを上手く誘導して、「映画の登場人物」に仕立て上げているのがすごいなあと思った。

いやー、私もこういう生活したい!と思った。実際、ヴァンドゥエラーって今、若い人の間で流行ってて、ユーチューブでヴァンを改造している映像すっごいたくさん見つかる。ファーンも、最初は仕事を失ったり大変そうって思ったけど、楽しそうじゃん!

集会の焚き火でも、おばあさんが、同僚が病気になったら急に会社がリタイアを勧めてきて、同僚は10日後に死に、リタイア後に楽しみにしていた旅行に行けなかったから、自分はすぐリタイアすることを決心して、ヴァンドゥエラーになった、と言ってたけど、「私はそんなすぐリタイアできるほどお金ないなあ。リタイアしたい!と思ったらできるってかなり恵まれているな」って思った。

なんかどうも観ていると、これってベビー・ブーマーあたりのアメリカ人の価値観、いい仕事に付いて、大きな家を買って、リアイア後はデカいキャンパー買ってアメリカ中を旅行する、みたいな「物質主義」には意味がない、つまり「ミニマリスト」になろう!ミニマリストの生活は大変だけど、その方が生き生きした生活だよ!って言っているような感じがするんだけど、現実は「ミニマリストの生活が生き生きしている」わけじゃなくて、今ではリタイア後の旅行は、季節労働しながら命がけでやるような社会になっただけ。

ファーンは、妹や集会で会ったデヴィッドに「一緒に住もう」って言われても、それを拒否してヴァンでの生活をしている。仕事が見つからなかったり、駐車場を追い出されたり、ファーンの生活が大変だって描写もある。でも、車が壊れたらお金を貸してくれる妹がいて、こういう生活ができること自体が恵まれているなあって思った。

本当に車で生活しなくちゃならない人って、普通の乗用車にぎゅうぎゅうにものを詰め込んで、キャンプ場なんかに泊まれない人たちだよ。それに黒人の男性だったらどうだろう?と思った。ファーンは白人の女性だから、無断駐車していてもあの程度で住むけど、黒人の男性だったら警察が来て逮捕されるかも。撃ち殺されるかも。

行く先々で結構色んな仕事見つけるなあ、とそれも「本当なのかなあ〜」と思った。黒人の男だったら、あんなに簡単に雇ってくれるんだろうか。

ファーンのミニマリスト・ファッションは素朴で可愛くて、ショートカットも良く似合って「こんなおばさんになりたい」って思わせる。

スワンキーが、アラスカで経験したことを語るシーンは泣きそうになった。やっぱり人間って、素晴らしい景色とか野生動物との触れ合いとか、モノや写真じゃなくて、脳裏に焼きついた「感動」に突き動かされるものなんだなあ、その気持、分かる!って思った。

病院に縛り付けられて死ぬくらいなら、旅がしたい、ってのも分かる。ただ長生きしても意味がない。だけど本当にお金がない人は、そう思ってもボロボロの家で医療も受けられず死んでいく。

私もこういうおばあさんになりたい!こういう生活ができたら幸せだって思うんだけど、なんかザワザワするのは、こういう生活自体が恵まれていて、私にはできないだろうなあと思うからだと思った。

本当に車上生活をしている人、した人たちが iMDb に投稿していたけど、やっぱりこの映画はこういう生活をロマンチックに描きすぎって書いてあった。本当はもっと危険だし、医療にかかれないとか、仕事が見つからないという不安感はすごいプレッシャーだと。でもそう思う。だって、高齢の女性が1人で旅していたら、強盗しようって人が現れたりすると思うし、怖いでしょ。

あと、ヴァンドゥエラーの集会などで出逢う人がみんないい人ばかりだけど、嫌な人もいっぱいいると思うよ。マウンティングしてきたり。それに、「お互い助け合っている」って言ってるけど、助け合えるってことは余剰があるってことだよね。私キャンプしたことあるけど、隣にキャンプしてた人たちは、本当に家がないらしく、私が無知でこの人達と仲良くしていたら、「あれ貸してくれない?」とか「今日買い物行けなかったので、食べ物分けて」とか、すごいたかられた。だからああいう集会とかあったら、本当に困っている人たちが恩恵を受けようとやってきたりするんじゃないかなあ。それともそういう人たちたはここまで旅することすらできないから来ないのか。

それと、これって微妙にアマゾンのCamperForce program の宣伝になってないかなあって思った。「これからはこういう生き方!」みたいな。でもこれって、アマゾンのような大企業に優位だよね。必要なときだけ季節労働者を雇える。CamperForce program のサイト見てみたけど、映画で描かれるようにキャンプサイトの使用料払ってくれるんだけど、「アマゾンはもちろん、キャンプサイトの使用料を払いたくありません。アメリカには無料のキャンプサイトがたくさんあります。そこを使用してくれるのは大歓迎です」って書いてあった。

だって、アマゾンのベソスとか上層部は、大きな家を買って、別荘買って、みたいな「ブーマー」の生活を未だにしているんでしょ?そういう人たちが富を分配しないから、ファーンのような人たちが生まれるのに、その人たちのノマド人生を美化して肯定してしまうと、貧富の差を受け入れてしまうことにならないかなあ。

資本主義からの脱却といいながら、資本主義が続いていくために更に都合のいい労働力になっているというか。

フランシス・マクドーマンドは、こういう普通の人の役やらせるとすごい上手いんだけど、この人も結局は恵まれた生活しているから、想像で演じているんだろうなあと思うし、監督のクロエ・ジャオは「私はポリティカルな映画は撮らない。ポリティクスは政治家に任せる」と言っていて、その気持は分かる、「人間を描きたい」しそれにいちいち「これは正しい、正しくない」ってレッテルを貼られたくないんだろうなと思う。

なんだけど、余裕があるからヴァンドゥエラーになる人と、生活に窮してこういう人生を選ぶ人とは雲泥の差があると思うし、余裕もないのにエイヤ!ってこの生活に飛び込んで、上手くやっていける人、上手くやれなかった人など、色んなタイプの人がいると思うんだよね。それを色々見せてくれたら「なるほど、今のアメリカなんだ」って思えたけど、ファーンのキャラが恵まれているんだか大変なんだか、色んなタイプのヴァンドゥエラーがごちゃごちゃになっているキャラで、なんかやっぱり「恵まれている人の思うミニマリストなライフスタイル」って感じで、「現在のような状況でも、希望を持って生きることはできる」と、まだ若い人やお金持ちの人が言っているだけで、現実とはあまりにもかけ離れている感じがした。
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