定住に安息を見いだせなくなった人々へ。
フランシス・マクドーマンドの演技がとにかく素晴らしい。彼女自身が、役柄を超えて本当のノマド達と出会い、ともに旅をし、喪失を乗り越えているようだ。
時折、詩が引用されるのが印象的。たとえば物語冒頭、主人公ファーンの元教え子の女の子がこう言う。
-先生はホームレスになったの?
-私はホームレスなんじゃなくて、ただハウスレスなだけ。
その娘が、かつてファーンに習ったという詩を唱える。シェイクスピアの『マクベス』に因るらしい。
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明日が来て、明日が去り、また明日が来て、
時はゆっくりとした調子で、この世界の最後の日に辿りつく。
すべて昨日という日は、愚か者どものつまらぬ死の道筋を照らしてきたのだ。
消えろ、消えるんだ、はかない灯火!
人間の一生など歩いている影にすぎぬ、
みじめな役者だ…
(『マクベス』第五幕第五場)
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『ノマドランド』の本編を通してただよう、諦めに近いが爽やかでさえもあるノマドの孤独感を象徴するかのような一節。自然の壮大さを前にすると、取るに足らない人間の一生。それをただ静かに映像としてとらえるクロエ・ジャオ監督のまなざしがまた凄い。