まいこ

ノマドランドのまいこのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
3.7
アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション『ノマド 漂流する高齢労働者たち』を原作に、『ザ・ライダー』で高く評価された新鋭クロエ・ジャオ監督がメガホンをとった。

ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーに全てを詰め込んだ彼女は、“現代のノマド(遊牧民)”として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。

『ザ・ライダー』のドキュメンタリーな作風を想像していたらその通りで、今思うと『エターナルズ』は真反対のジャンルにも関わらずよく仕事を引き受けたな(監督本人の嗜好を考えるとそうでもないが)。また、『万引き家族』や『フロリダ・プロジェクト』とは異なる生活圏のお話だということを頭に入れてから鑑賞すべき。

主人公のファーンはバンに住んでおり季節の変化と共に仕事を変え拠点を転々とするハウスレス。基本的に同じ環境で過ごしている仲間たちは高齢者に多い。死期が迫っている者、厚意にしてくれる者、若いが家を持たない者、様々な人と関わりを持つファーンのは家のない孤独者と言うよりむしろ多くの繋がりに囲まれている。
この設定を如何にして起承転結を繰り広げるか不思議であったが、結局のところ思い出の鎮魂歌、慰めの旅だった。記念に貰った皿を割られても捨てるのではなく、接着剤で継いでいる姿に顕著に現われている。家を持たないことが強さなのではなく、思い出に寄り添い続けていたからこそ強く生きてこられたファーン。始まりと終わりで彼女をとりまく重圧感は変化してゆく。

実際の車上生活者を起用しドキュメンタリー風味、死生観とも繋がるため、リアリティが高くエンタメ性は皆無だが自分を見つめるにはちょうど良い作品。

日本のホームレスとは違った文化なので比較するまでもないが、車社会であるからこそ出来上がった"ノマド"ライフなのだろう。もし日本で同じ様に過ごすのであればいくらノマドワーカーとはいえキャンピングカーの旅程度に収まりそう(家はある)。

またどこかで
まいこ

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