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ノマドランドのbutasuのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
3.0
キャンピングカーで移動しながら各地を転々とする中高年者たちを描いた作品。現代の放牧民と言えばそうなのだが、そこには強烈な孤独感や寂しさがあり、何とも言えない気持ちになった。

主人公は夫を亡くし、住み慣れた町すらなくなってしまい、この生活を始める。主演のフランシス・マクドーマンドの存在感が素晴らしく、説明や大げさな表情が一切ないのに、彼女の心情が痛いくらい伝わってくる。また周りで同じような暮らしをする人々も、皆何かを失ったり何かを探し求めていたりしており、集まれば楽しそうにするものの、決してポジティブな理由でこうなっているわけではないように見える。

あと単純に社会問題として、「経済危機で高齢者が家を失い車上生活をしながら日雇いの仕事をする」という現状のヤバさがありありと伝わってきた。ただ彼らはこれをある種の"スローライフ"として"むしろ素敵な暮らし"であると受け入れているようなので、そこまでの切迫感は感じられなかったが。実際、黒人のノマドがいないのは、黒人がそんな暮らしをしたら本当に生命の危機があるかららしいしね。

終盤で老人に「ノマド暮らしとは」みたいな語りをさせたのが本当に余分で勿体なかった。「亡くなった息子のために人に親切にしたい、息子を探し求める旅だ」的なやつ。もう十分伝わっているのに、台詞でわざわざ説明されるとゲンナリしてしまう。

とか色々と思っていたのだが、主演二人以外は本物のノマドの人たちに演じさせている、ということを観終わった後で知った。そうなってくると何だかどの台詞も重みが全然変わってくるなぁ。

自分も大切な人や居場所を失ったら、主人公のように生きる可能性もあるな、と思った。夫を失った穴は決して他の誰かでは埋まらないし、他の家を自分の居場所だとは思えない。そうして旅を続けてしまうというのは、なんだかとてもわかる気がする。
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