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完全なる飼育 etudeのQOneのレビュー・感想・評価

完全なる飼育 etude(2020年製作の映画)
3.9
濃厚な80分だった。

人間が極限に追い詰められた時、エロスが激しく発火する。それをギュッと凝縮して体感させてくれた。

「完全なる飼育」のシリーズ第9作という位置づけでも存分に楽しめると思うが、単体の作品としての濃度と切れ味が最近作の中でも群を抜いている。

これまでのシリーズと一転して、女性が青年を「飼育」するという構成は、今の時代を反映しているようだが、誇り高き女性演出家が極限まで若手俳優を追い詰める‘容赦と逃げ場が一切無い’密室劇として楽しめる。

だからきっと映画館でこそ、その迫力を堪能できると思う。舞台劇ならではの光と影のコントラストが映え、私は試写で観たが映画館では自身も見えざる観客の1人となった高揚に包まれるだろう。

女性演出家役は元宝塚の女優の月船さらら。女王のごとく君臨して容赦ないサディズムを発揮する一方で、自信が崩れかけた繊細な芸術家としての苦悩、クライマックスに魅せる女としての顔、と多面な業を体現していて素晴らしい。

また、彼女を崇拝しながらも罵倒され、追い詰められていく新進役者に扮した新鋭の市川知宏も、彼女に対峙するギラついた眼差しと‘窮鼠猫を噛む’剥き出しの感情が真に迫る。そしてもう1人、劇中劇で彼の共演者の菊姫を演じる女優役の金野美穂の振り切った狂気とエロスも目を見張る。この作品が劇場初公開となる加藤卓哉監督の演出には微塵も遠慮を感じさせない迫力があった。

そんな緊迫感溢れる舞台劇のボルテージを高めながら、このシリーズの看板役者とも言える竹中直人の期待通り、いや「しこふんじゃった。」頃を彷彿とさせる軽妙な笑いも随所に盛り込まれ、あっという間にクライマックスに連れていかれた感がある。

そしてこのシリーズの肝でもある濡れ場に関してもエロでもエロティックでもない生の’エロス’がしっかり迫ってくる。

人間だれしも、自分の中にS的自分とM的自分がいると思うがこの映画を観て、どちらの自分の血が騒ぐのか、思わぬ発見があるかもしれない 笑

加藤監督は来春に「裏アカ」(「火口のふたり」でキネマ旬報主演女優賞を取った瀧内久美主演)も待機しているが、そちらもどんな濃密なドラマとエロスの融合を魅せてくれるか楽しみだ。