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ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償のblacknessfallのレビュー・感想・評価

4.6
21才の若さでFBIに暗殺されたブラックパンサー党の幹部フレッド・ハンプトンとFBIの内通者としてブラックパンサー党に籍を置いたウィリアム・オニールの生き様を描いた映画。ずっと観たかったやつ。

窃盗罪を揉み消す条件でオニールはブラックパンサー党に入党しフレッド・ハンプトン及び彼が所属するイリノイ支部の情報を流す警察のスパイになった。
ケチなコソ泥でノンポリ、もっと言うと植え付けられた奴隷根性が骨身に染み込んだオニールは武装闘争を唱え白人社会に戦いを挑むブラックパンサー党を過激なテロ組織と考え冷ややかな目線で見ていた。しかし、中に入って見るブラックパンサーは貧しい子供達に無償で食事を提供し、無料医療診療所を開設し貧困層の黒人の生活を全面的に支援していた。
"ブラックパンサーは子供の飢えを許さない"
"無償の医療、無償の食事、無償の住宅の提供を目指す"フレッドが掲げるスローガンに感銘受け、徐々にブラックパンサーとフレッドに共感を持つようになるのたが…

スパイする対象に好意や共感を持ってしまい自己の保身との狭間で悩む、潜入ものの典型が展開される。なので重いテーマだけどサスペンスとしての楽しさがあって、こういうテーマに関心が薄い人でも退屈せず観れる構成になってる。同じ構造の大傑作『ブラッククランズマン』があるけど、あれほどユーモラスな演出はないけど地に足の付いた硬質なサスペンスになってる。さらに比べてなんだけど『ブラッククランズマン』のような派手でテクニカルなカメラワークはないけど、分かりやすい展開と流れを重視した演出に監督の才能を感じた。


こう見えても真っ当でめんどくさいポリティカル・スタンスを持ったパンクスなんで、フレッド・ハンプトンが暗殺されたということは知っていた。
ずっと不思議に思ってたのは、フレッドより遥かに大物のブラックパンサーの幹部達、2人の創始者ヒューイ・P・ニュートンとボビー・シール、有力幹部のストークリー・カーマイケル、エルドリッチ・グリーヴァーでさえ不当に投獄はされてるけど、暗殺まではされてない。何故一地方の代表に過ぎないフレッドだけは暗殺されてしまったか?この映画はその原因を描いてる。

フレッド・ハンプトンは対白人社会及びアメリカ政府に他の幹部達が思いもつかなかった大胆不敵な戦略をとる。
それは黒人以外の反政府組織との連帯。プエルトリコ系の自衛組織から驚くべきことに、白人低所得者層の支援政党(南部国旗掲げるKKKグルーヴな人達)にまで連帯を持ち掛け、持ち前の弁舌の鋭さとカリスマ性で不可能と思える連帯を実現してしまう。
これはすごい発想であり確実に政府を覆せることが可能な体制側にしてみたら恐ろしい戦略。
実は差別されてるのは黒人だけではない。アメリカはファシズムを暗に温存し人種を分断させ、多くの貧しい人々から搾取し、一握りの富裕層や権力者をより富ませる資本主義社会を維持してる。
圧倒的多数の搾取される側が政府打倒で纏まったら早晩瓦解することになる。

フレッドが政府に恐れられたのはこの仕組みに気づき、尚且つ分断を突き崩す実力を持っていたからなんだよ。建国以来続いてる分断と支配を地方規模とは言え確実に脅かした。これはマジで凄いことだと思う。薩長同盟なんかより偉業だよ笑
白人低所得者層の支援政党の集会に乗り込み、緊迫感と嫌悪感が渦巻く空気を別舌で変えていくシーンは静かな演出だけど胸が高鳴った。
そして結成された人種越境反政府同盟お披露目シーンは「これならいけんだろ!勝てんじゃねえの🤩」て昂揚感あった。

これを見て焦りに焦ったFBIと地元警察はスパイのオニールを使いフレッド暗殺に動く。ブラックパンサーに共感しフレッドに好意を抱いたオニールは苦悩しながら、結局フレッドを裏切り(最初から裏切ってるんだけど)、フレッドは他の幹部とともに寝ているところを踏み込まれ銃撃戦を装った警察に銃殺させる。警察は彼等が撃ってきたというが、それはたった一発、警察は90発も発砲してる。
BLM運動の契機になった警察の不当な射殺はこの頃から公然とあり今に受け継がれた負の伝統。

アメリカは今も何も変わってない。だからフレッドの演説の有効性はまったく失われていない。むしろ説得力を増している。
「暴力か非暴力かが問題じゃない」
「ファシズムに抗うのか流されるのかが問題だ」
「拳を突き上げろ!」(叫べ!)
「私は-革命家だ!」「私は-革命家だ!」

そしてアメリカだけの話じゃない日本だって同じだから。しっかりファシズムと搾取の牢獄は出来上がってんだよ。
そんなことに気づかず反射的に政府の暴政を庇い「在日ガー」や「中共ガー」と喚めき散らす奴隷根性と差別意識が主成分のポーザー愛国者の人にこそ観てほしいと思った。
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