スレブレニツァ・ジェノサイド。
わずか26年前に実際に起きた信じられない悲劇を、綿密なリサーチと強い意志により映像化した意欲作。
一人の女性が、その悲惨な実態に立ち向かいながらも、無力にも被害者となる様は、とにかく苦しい。
突如、命の危機に晒された人々の、焦り、戸惑い、混乱する様子がリアルに描かれていた。
人はなぜ、信じるものが少し違うだけで、ここまで憎み合うのか…。
なぜ、『民族浄化』という恐ろしい発想が起きてしまうのだろうか…。
無知を恥じ、戦争を憎むことしかできない自分が情けない。
だが、これは決して過去の話として終わらせられないということは、理解していなければいけないと感じた。
アイダとその家族がメインに置かれてはいるものの、冒頭から既に紛争中の状態で始まり、家族の細かい描写がないため、その辺りにさほど感情移入は出来なかった。
ただ、事態をきちんと描くために、そこをあえて薄く表現しているのだろうなとも捉えられた。
結果、この出来事の悲惨さは伝わったものの、作品としては少し物足りなさは感じた。
タイトルの「アイダよ、何処へ?」という問いかけの答えがどこにあるのだろうというのが、観る前の興味の一つだったのだけど、新訳聖書による『Quo vadis,Domine?(主よ、どこへ行かれるのですか?)』に由来していることを知った。
我が民キリスト教徒のため、身を挺して死地へ向かうイエスと、今作のアイダの行動を重ねたタイトルだった。
(※時代背景は頭に入れてから観た方が楽しめると思います。)