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アイダよ、何処へ?の一のレビュー・感想・評価

アイダよ、何処へ?(2020年製作の映画)
4.0
『サラエボの花』のヤスミラ・ジュバニッチ監督作品

ボスニアヘルツェゴビナ紛争の中で起きた大量虐殺事件「スレブレニツァの虐殺」の全貌と、その中で家族を守ろうとした一人の女性の姿を描いたヒューマンドラマで、今年のアカデミー国際長編映画賞にもノミネートされた作品

まず観終わって残るものは、なんとも形容しがたい哀しみというか虚しさというか…
そのくらい軽々しく語れるような映画ではないけど、間違いなく傑作と断言できる

あまりにも悲惨な出来事を真正面から描き出す物語の構成が秀逸で、歴史を知らない自分でも憎悪と暴力が連鎖する絶望感が痛いほどに感じられるし、この背景を知っている方であれば、より一層響く映画だと思います

『サウルの息子』や『シンドラーのリスト』、ちょっと違うけど『デトロイト』なんかも想起させられるような緊張感の持続

今のアフガニスタンの情勢と重なる部分も多く、人種や宗教の違いで同じ民族が殺しあう民族浄化という名の集団虐殺
難民2万人にたいして数百人という全く頼りにならない国連軍
平和的解決を実現させようと、無力の国連軍通訳を必死に務める元教師の主人公アイダの耐え難い苦悩

日常の中で起こる悪夢のような戦争の悲劇を描くと同時に、ひとりの母親として夫と二人の息子を助けるために死にものぐるいなアイダ姿は、普遍的で共感できるからこそ激しく胸を打つものがありました

テンポの良いサスペンスタッチと、まるで現場に紛れ込んだような凄まじい臨場感を生み出す演出も素晴らしく、魂が揺さぶられるくらいの迫力ある画力にも圧倒される
なにより、ポスターにもなってるアイダの形相が目に焼き付いて離れない…
そうした絶望の果てにおとずれる鮮烈なラストははたして微かな光といえるのか

こんなにも酷たらしい出来事を絶対に忘れさせないという監督の切実な思いが強く感じられるし、このような悲劇がたったの26年前に起こっていたなんて信じられないし信じたくもない

監督が一貫して描き続ける民族紛争の傷跡のメッセージはあまりにも重いですが、それ故にこれほどまでに突き刺さる傑作として昇華されるのだろう

ここまで公開館数が限られているのが本当に勿体ない
できるだけ多くの人に観て欲しい傑作

〈 Rotten Tomatoes 🍅100% 🍿88% 〉
〈 IMDb 7.9 / Metascore 97 / Letterboxd 4.1 〉

2021 劇場鑑賞 No.055
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