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アイダよ、何処へ?のおふとんのレビュー・感想・評価

アイダよ、何処へ?(2020年製作の映画)
3.6
ボスニア紛争におけるスレブレニツァ虐殺を、国連軍の通訳をしているアイダの視点から描いた映画。

かつて東欧にあったユーゴスラビアという国は度重なる紛争の果てに散り散りに分裂してしまいましたが、正直に言ってここら辺の近現代史というか民族紛争に関しては複雑すぎて何度調べてもさっぱりわかりません。
学校ではすごい昔の歴史よりも、こういう最近の歴史をもうちょっとちゃんと教えるべきですよね。

驚くのは、この虐殺が起きてからまだ25年程度しかたっていないので、本当につい最近の出来事だということ。
だと言うのに殆どの日本人はそこまで詳しくこの虐殺については知らないんじゃないか、というのが1番の恐怖ポイントだと思います。
ユダヤ人のジェノサイドについては知らない人はいないと思いますが、平成の時代にヨーロッパでこんなジェノサイドが起こっていたなんて俄かには信じ難いですよね。

この映画、何が凄いって直接的な暴力描写や殺人描写、戦闘描写は実はほとんど出てこないんです。
にも関わらず終始凄まじい緊張感で、セルビア軍も表向きは平和的に解決するふりをして、裏で虐殺しているわけで、でもその虐殺に関しては直接は描かれないから、余計恐怖がかきたてられる。
このじわじわと追い詰められる精神がひりつく感じは「デトロイト」の描き方に似てるなと思いました。

直接的には描かれない虐殺描写には恐らくもう1つの意味があって、それはこの問題に関する国際社会の無関心さ、もしくは目を背けようとしてることを表してるのかなと思います。

つい最近も米軍がアフガニスタンから撤退しタリバンの支配下になるという歴史的事件がありましたが、そのときに空港に集まった市民の姿が、この映画の国連施設に集まる市民の姿と被りますね…。

映画を見た誰しもが思うであろう国連無能すぎ問題に通じるところがあると思いますが、ここまで弱々しく頼りにならない国連の描写は久々に見たな、という感じです。

あれは装備も貧弱で実際に戦力としても頼りなかったのかもしれませんが、おそらく虐殺の存在を認めない、認めてしまったら国連が市民を見捨てたことになってしまうから、虐殺は無かったことにしようとする、そういう描写で、それが印象的な目を見開いて真正面を見据えるアイダと、正面を向かず眼を逸らそうとする国連との対比として描かれてるのかなと思いました。

ラストの子供たちのシーンは民族共生の希望のようでもあり、この問題がまだ未解決であることを表してるようでもあり、なかなか考えさせられる映画でした。