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国境の夜想曲のgenarowlandsのレビュー・感想・評価

国境の夜想曲(2020年製作の映画)
1.4
ドキュメンタリーは再現させることではないと思う。

「海は燃えている」の監督だったことを忘れて観てしまった。こちらも何を伝えたいのか、何を撮ったのかが不明瞭なドキュメンタリーだった。イラク、シリア、トルコの国境近くの様々な地点での紛争の痕を美しく映していて、私には作り物の感じがぬぐえなかった。

3年間、滞在して撮影したとのこと。しかし、3年間住んでいたのか、行き来したのかは「海は燃えている」と同じように不明。

何も伝わってこないだけでなく、気になったことが2つある。1つはISISに攻撃されたことを子供たちに思い出させて絵に描かせて話させていること。ヤラセかと思ってしまう。あまりの残忍な仕打ちを思い出すだけでも子供たちにはトラウマになるだろうし、何か心理療法の一環なのか、あるいはきちんと心のケアをサポートする体制が整った上での絵画化なのか、その説明もないまま子供の人数×5枚くらいの絵が貼り出される。先生が誘導し、それぞれの子供が説明するのに加え、吃音の子供が残忍な絵を説明するのを長く撮っている。自然に撮られたシーンとは思えない。そうでなければ絵を描いたのはずいぶん前ではないか。再現させることの倫理観を疑った。

2つ目は精神科病棟の「選ばれた(と病院が語った)患者達」が政治的な寸劇をする。その練習風景。どうみてもヤラセにしか見えない。誰に見せるかも何のためかも語られない。

もう1つあった。冒頭で息子を拷問で亡くした母親達が砲撃された刑務所跡を訪ね、そこでまるで演劇のように画面に広がったり集まったりして、嘆く。20人ほどの母親達が何しに来たのか理由がわからない。刑務所もはるか昔に砲撃された廃墟であった。

それぞれの痛ましい事実を語るシーンがどれも事実は事実であっても、語るために集めたような、不自然さを感じた。再現させているのではないかということ。

他には夜想曲とあるように、父親のいない大家族の家計を、鳥の狩猟の手伝いで支えなければならない少年のシーンは絵のように美しい。なぜ美しく撮ったのか、タイトルを夜想曲とムーディーにしたのかも疑問。

鳥狩り少年の虚ろな目だけで十分に伝わるし、日常に銃声が聞こえることはわかった。子供に絵の説明させるのはやめてほしかった。精神科病棟の患者がなぜ政治的な寸劇をするために、何度もセリフを覚えさせられるのか、説明不足過ぎたし、心ある人の心が伝わってこない。

どこかにもあったが、私も社会問題をアートにするな、と思った。誠実さを感じられなかった。スコアつけるのやめようかと思ったが、つけました。
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