アキラナウェイ

私というパズルのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

私というパズル(2020年製作の映画)
4.6
産まれて来た娘を抱き寄せたのも束の間。
そのまま呼吸をしなくなり、娘の生涯は刹那の時に幕を閉じる。

何て残酷で悲しいストーリーだろう。

ボストンで暮らすマーサ(ヴァネッサ・カービー)は、夫のショーン(シャイア・ラブーフ)と自宅での自然分娩の準備を整えていた。希望していた助産師は都合が付かず、代わりにイヴという助産婦が自宅を訪ねてくる。

次第に強まる陣痛。

しかし、彼らの娘は産まれて間もなく息を引き取ってしまう—— 。

圧巻はワンカットでカメラを回し続けた出産の長回しシーン。長回しをこよなく愛する僕は瞬きを忘れて、そのシーンに魅入ってしまった。

荒々しく強まる息遣い、
破水し、狼狽える夫婦、
激しく襲う吐き気、
予期せぬ助産師の登場。
しかし、その果てに待っていた絶望。

一寸先は闇。人生何が起こるかはわからない。それをワンカットで全て収めてしまおうという心意気に惚れた。

これは、壊れた心の再生の物語。

互いに想い合っている筈なのに、
擦れ違ってしまう夫婦の心。
荒んだ心を表す様に、観葉植物も枯れている。
腫れ物を触る様に、
優しく明るく振る舞う同僚達。
助産師イヴを告訴しようと、躍起になる母親。

粉々に砕けてしまったマーサの心を他所に、彼女を取り巻く世界は彼女を待ってはくれない。ただひたすら1日、1日と世界は回り続ける。

ヴァネッサ・カービーが魅せる。
僕の中のアカデミー主演女優賞は貴女に贈ろう。

その身を痛めた訳ではないけれど、男だって辛いんだ。泣きじゃくり、逃げてしまう弱さを、これまたシャイア・ラブーフが上手く演じているんだな。彼が浮気に走ってしまったその先に、サラ・スヌークの存在感。どーん。

橋の建設現場で働くショーン。
日を追う事に橋が繋がっていく描写で時間の経過を表す演出が見事。

時間が経てば、その傷も癒えていく。

失意の果てにマーサが見つけた答え。
法廷での彼女の言葉には、他者を思い遣る慈愛に満ちていた。

林檎の発芽に象徴される、再生。

林檎の木はそんなに早く大きくはならないだろうよ、と野暮な事を呟く口も噤(つぐ)みたくなる程、ラストシーンもまた良き。

長回しLOVEなので、スコアは加点気味に。