くう

ミス・マルクスのくうのレビュー・感想・評価

ミス・マルクス(2020年製作の映画)
3.5
8月29日オンライン試写

あの『資本論』のカール・マルクスの三女にして女性政治活動家、エリノア・マルクスの人生を切り取った物語。

昨夜見ていた「アンという名の少女」の時代に繋がる先進的な女性の生き方を進めた人だと思うと現代への繋がりまで感慨深い。

そして「前へ」へ繋がる人生のラスト……それは果たして「前」なのか。

労働者階級と女性と児童の平等と自由のために働き「前へ」進む考えを広く伝えて来たのに、自身の人生はあんな男に支配されてきたんだなぁと思うと切ない。

どんなに支配からの脱却を目指しても、誰かに心を支配されることからは抜け出せない。爆発する音楽演出が凄い。

他のユーザーの感想・評価

[好きな格言は"Go Ahead"です] 50点

物語は1883年の父カール・マルクスの葬儀から始まる。この数ヶ月前に姉ジェニーも亡くなっており、2年前に最愛の母イェニーも亡くなっている。更には映画の中でエンゲルスも亡くなる他、映画自体がエリノアの最期に向けてカウントダウンをしていくかのように、冷酷な年号表記がなされている。そんな死の匂いの立ち込める15年の間に、彼女は様々なことに気が付き、行動し、時には目を瞑る。"行動"について、彼女が翻訳し主演したイプセン『人形の家』が直接的に引用され、"私の思想は父の受け売りで、中身が空っぽの人形なのではないか"と言わせているが、劇中でそれ以外に活動記録以上の言及はない。逆に"目を瞑る"行為に関しては、金遣いの荒い女好きな夫エドワード・エイヴリングとの関係性がほとんどである。彼女は金持ちに抑圧されて生産者としての主体を剥奪される労働者と、男性に抑圧されて人間としての主体を剥奪される女性を重ね合わせて活動しているが、自分自身に関してはその図式から外し、どれだけエイヴリングに虐げられようと彼を待ち続けるのだ。そんな感じで本作品は、対外的にはフェミニストとして活動しながら、家の中ではエイヴリングの有害な男性性に従属しているという矛盾を描くことに固執しているが、冒頭からエイヴリングは冷淡な人物だったので情熱的な恋の発端が分からないし、エリノアによる第四の壁破壊や劇伴としてのパンクロックなどの余計な装飾が矛盾に至るエリノアの感情部分を描き出すことを阻害し続けている。というか、全体的にパンクな感じなのかと思ってたが、分かりやすくパンク要素を入れてるだけで、確かに意味はあるんだろうけど微妙な盛り上がり具合だった。エンゲルスの存在もニコニコしてるゆるキャラみたいなんだが、本当にそんな関わりが希薄だったのだろうか?伝記ものって難しいね。

これで行方不明のニコール・ガルシア『Lovers』以外の2020年ヴェネツィア映画祭コンペ作品は見終わったが、残念ながらレベルが高いとは言い難い。自分が審査員なら金獅子はなしにします。
せりな

せりなの感想・評価

3.0
『資本論』のカール・マルクスの末娘、エリノア・マルクスの伝記映画。
クラシック音楽を現代的にアレンジしたり、パンクロックに乗せて伝わってくるエリノアの感情が斬新な作品。

労働者の地位向上と男女平等を訴える彼女は、現代にも通じる魅力があると思います。社会主義は大成することはなかったけど、最も手を動かして物を生み出す人は貧しく、人を使うだけで物を生み出さない人間が富を得る搾取構造に対してNOと声高に訴え、雇用と労働の問題の本質を理解している姿に彼女の聡明さを感じました。
結婚に関しても不平等な契約であり、女性の自立を奪うものであると訴えているにも関わらず、不実な夫を退けることができないでいた。
史実として、夫の影響で心神喪失状態で自殺してしまう訳ではあるけど、この作品での彼女の描き方だと、自殺より夫を毒殺しそうな雰囲気があったので、彼女の心情をリアルに描いているようには感じられなかった。

マルクスとエンゲルスの関係は、他の戯曲などでざっくりとは知っていたので、エンゲルスが色々と援助してくれていたのは納得はいく。
マルクスのエピソードは信じられないものが多いけど、大体実話なので相当な人たらしなんだろうな。カール・マルクス周辺の人間関係は濃密過ぎるわ。
実際は、カールの婚外子に対してエリノアはかなりショックを受けていたらしいけど、本作ではショックは受けつつもそれなりに仲良くやってそうな雰囲気だったな。
カールの実子はみんな早世だけど、婚外子の彼だけ天寿を全うするのも業を感じる。

150年ほど前に、こういう考え方の女性がいたという物語でいいのかな。
150年の労働者たちは労働環境に対して雇用主に不満を訴えているのに、日本の労働者はおとなし過ぎるなと感じるけど、不満を訴える余力さえも残っていないんだろうな。昔はストとか普通にあったって聞くしさ。
hikari

hikariの感想・評価

3.3
試写にて鑑賞。
カール・マルクスの娘、エリノア・マルクスの半生を描いた映画。女性や子供、労働者のために活動し続けた人。
どの時代も、屈せず闘った女性が居たことの敬意は忘れたくないし、やはり私たちは同じように少しでも生きやすくするために行動していくしかないのだと思う。

個人的に、人物関係が複雑で混乱したので、公式HPで予習すると分かりやすい。
繰り返し観たら、なるほどとなった。
うまく伏線回収されていたけど、エリノアの私生活が描かれていることが多くて、もう少し具体的な活動が描かれていたらより訴えるものがあったかと。
恋は盲目というけど、なぜあの男なのか。お金や女性にルーズ。分かっていながらそばにいるエリノアを考えたらもう。。胸糞悪いよ。
アヘン、パンクロックで踊り狂うほど追い込まれてたのはわかるけど、ラストまでの経緯が伝わりにくく、イマイチ乗り切れなかったわたし。

冒頭のクレジットの色が可愛い。
音楽もパンクやアレンジの効いたクラシックを随所に使ってて新鮮。でも曲のかかり所がちょっと残念、に思う。衣装やお部屋の装飾がおしゃれで、色の使い方にセンスしか感じなかった。あの時代のイギリスファッションを調べたけど、あそこまで洒落たものはないし、現代っぽさも感じて良かった。エリノアの人生との対比?みたいなのも感じられて面白かった。決して物語の後味はよくないのだけど。
とりあえず私は歴史を勉強し直すところから。
toomilog

toomilogの感想・評価

2.8
女性の地位向上についての語りもありながらダメな男に翻弄される姿はちょっと皮肉にも見える。最後のロックなダンスが印象的でした。
pherim

pherimの感想・評価

3.6
カール・マルクスの葬儀に始まる娘エリノアの生涯。

イプセン他の紹介者たる演劇人にして、社会主義とフェミニズムの両立を実践する女の果敢さと、相反して深まる心の孤立。

マルクス家の窮乏や、エンゲルス翁の鷹揚さなど印象深く、緻密な衣装と突き抜けたパンク演出が魅せる。


『ミス・マルクス』、本筋とは無縁ながらエンゲルス翁が臨終際に、カール・マルクスの重大な秘密を打ち明けエリノアが絶叫する場面に笑った。バイタリティ過剰の偉人にありがちな。

青年期描く『マルクス・エンゲルス』(Amazon P, U-NEXT等あり)とセットで観るのも良いかと。

 『マルクス・エンゲルス』 https://twitter.com/pherim/status/998404183450705920
ま

まの感想・評価

3.2
カール・マルクスの末娘エリノア・マルクスの半生を描いた伝記映画。女性活動家として活躍していく一方、パートナーとの関係に苦悩し続けたエリノア。

理想と現実とのギャップがな〜、みていて苦しい。。。
この時代にこのような女性がいたことを知れてよかった。

劇中に挟まれるパンクロックは、エリノアの心の叫びを表してるのか?あまりあってなかったように思う。。。
angelica

angelicaの感想・評価

4.2
マルクスの娘について何も知らなかった。
19世紀後半。労働者の、女性の、生き方について闘ってくれた人だった。
ロモーラガライの瞳とふっくら頬がまっすぐさを表してる。可愛い。前髪は正義。子供時代も賢くキラキラした瞳。周りの男性はそれを愛したんだろうけど。けどけど。。
「2人の人生が溶け合うことに必要なのは 愛情、敬意、知的類似性、生活力」
つまりこの世界にはそれが全然足りてないということ。
<人形の家>にこんなに心えぐられたことは無い。
100年以上経ってもまだ共感できるって悲しいな・・

音楽がとても印象的だ。その時代のショパン、リスト。インターナショナル、社会主義の歌。

階級闘争の話、格差拡大している今この日々に見るのは意味があると思う。
作中では、世界の労働争議を社会主義の成果だと喜んでいた。
が最近では、新解釈が出ているらしい。
例えば、パリ=コミューンについて。記事より引用
https://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2021/08/post-af8812.html
『労働者階級によるパリの革命政権だ。政府軍による凄惨な市街戦により制圧されたが、理想的な民衆自治体制だったとある。
だが、最近の研究によると、「民衆による社会主義」という高評価は、マルクス主義者によって強調されたコミューン像だという。現在ではかなり修正されており、労働者や下層階級の不満の蓄積や、普仏戦争で屈辱的な条件を受け入れたことへの愛国的反発、耐乏生活への抗議が絡み合った特殊な状況から生み出された暴動だったと見なされている』
(引用ここまで)


主人公の会話でバイロンとかシェリーとか詩人の名前が出てきて、人柄って知らないなぁとググったら
バイロンの娘があのプログラミング言語のエイダなのね。てかお母さんが数学得意で「平行四辺形のプリンセス」て異名おもしろすぎる🤣
シェリーのwikipedia、愛にww奔放すぎてww眩暈がしてきたwww
主人公が恋するのも既婚者だしなあ・・


------------------
以下はどうでもいいネタバレ感想
















ラストまた歌ったーーwww 今年よく見たなあ😅😅😅😅
あと、濡れタオルで窒息させるのかと勘ぐってごめんww あいつはクズ!
女性として生きるということ

主人公は、資本論を書いたカール・マルクスの末娘のエリノア・マルクスで、通称はトゥッシーです。
ミス・マルクスという題名は、エリノア・マルクスが結婚せず、内縁関係のままで、自殺ということを表しています。
エリノア・マルクスは、才女だったようですが、自信過剰によりエドワードのような男性との関係を断ち切ることができなかったのではと感じました。

世界史や経済史に興味のあり、カール・マルクスを知っている女性には
お勧めできる映画です。
映画「マルクス・エンゲルス」の続編のような映画だから、映画「マルクス・エンゲルス」を鑑賞した人にもお勧めです。

登場人物は、知っていることが前提で、物語が進みます。
パンフレットには、登場人物について、詳しく書かれているので、パンフレットを購入し、読んでから、鑑賞することをお勧めします。

カール・マルクスの妻であるイェニー・マルクスは、カール・マルクス
が亡くなる2年前に、亡くなっています。

長女のジェニーは、フランス人と結婚し、フランスに住んでいますが、
カール・マルクスが亡くなる数か月前に、亡くなっていて、ジョニー
という息子がいます。

次女のラウラは、フランス人と結婚し、フランスに住んでいて、幸せに
過ごしています。

英国のロンドンに住んでいるカール・マルクスの世話をするのは、末娘のエリノア・マルクスだけということになります。

物語は、カール・マルクスが亡くなり、カール・マルクスの葬式から始まります。
エリノア・マルクスは、25歳です。
物語は、時系列に沿って進みますが、所々で、カール・マルクスが生きてた頃で、エリノア・マルクスが少女時代の話が挿入されます。

女性にとって、家族とはという何かというテーマが描かれています。
家族は女性を束縛するものなのか、守るものなのか?
女性は、男性と平等であるべきですが、平等であることで解決されるのか?
日本では、男女雇用機会均等法が1986年施行され、35年が経過しました。
男女雇用機会均等法が、日本の女性を幸福にしたのか、不幸にしたのか、
検証するべき時です。
2021年の男女平等ランキングでは、日本は153ヶ国中、第120位です。
韓国は第102位で、中国は第107位で、日本は韓国や中国以下です。
日本に住んでいる井の中の女性は、このことをどう感じているのでしょうか?

男性は働かざる得ませんが、望んで働いている人は少数派なのではないの
でしょうか?
家計を管理できる専業主婦になることを望んでいる女性は、20%程度いるそうです。

労働により成果を生み出す人は貧しく、人を使うだけで成果を生み
出さない人間が富を得る搾取構造は、今も変わりません。
政治家、官僚、社長、役員や中間管理職は、人を使うだけで成果を
生み出さない人間で、富を得ています。

150年以上もの年月が経過していますが、「前へ」進んでいない感じがします。
だからこそ、この映画を鑑賞する価値があります。

「インターナショナル」という歌が、現代風にアレンジされて、象徴的に
使用されています。
「インターナショナル」は、1871年、パリ・コミューンに参加していた
ウジェーヌ・ポティエが作詞し、英国に亡命し、発表されました。
mmoe

mmoeの感想・評価

3.4
エンドロールの間ずっと、脳内で「悔しい」と叫んでた。

そして映像に重ねられたパンクロックが、叫びとして、悔しさを生きるためのエネルギーみたいなものに昇華させた。生きてやると思っている。

作中引用される実際にエレノアが語った言葉たちに、私は2021年の日本で生きる私の現実を見出した。
労働者の権利は私が生きる日本という社会では今も蔑ろにされ続けている。この映画を上映しているミニシアターにおいても。可視化されていない階級の闘争、搾取される女の労働。
他者の言葉や思想を通して、何に苦しめられているのか、戦うべきものがあることを、そして自身の権利があることを認識することができることが素晴らしいと思った。
だけど、彼女が何を語ったのか振り返りながら、あるエレノアの演説を思い出し、悔しさが蘇る。

彼女を屈させたものから、わたしも解放されたい。そして生きてやる。









___
彼女を屈させたのは家族という仕組み・幻想であるようにみえる。家族は痛みを与えながらそれぞれを形作り、その仕組みに憎しみを抱かせ、批判的な眼差しを勝ち得てもなお、それから解かれる事がとても困難であることを私は痛感している。それらが犠牲を愛という言葉に塗り替えてしまうものとして個人から権利を奪う形で今も社会の基盤を形作っているという問題の本質にわたしは向き合わねばならない。

あとジョニーは元気かなってずっと思ってる。
男女間では前に進めなかった話。
「2人の人生が溶け合った結婚は稀有だが、実現するには愛情、敬意、知的類似性、生活力が必要」「女性の地位は向上したが、道徳の面で依然男に依存している」など、要所要所でメッセージを語らせているんだけど、問題意識の薄い観客にとっては唐突すぎたのでは?
パンクロックの力が強すぎて、画面とのアンバランスさを感じてしまった。
「ミス・マルクス」の感想・評価を全て見る

くうさんが書いた他の作品のレビュー

零落(2023年製作の映画)

3.5

趣里さん、伊藤 蘭さんによく似ているって、今回初めて思った。

出だしは何かのPVのように見せたいシーンだけが細切れになっているように感じたけれど、話にグイグイ引き込まれて、ラストは鳥肌。

何かの頂
>>続きを読む

モガディシュ 脱出までの14日間(2021年製作の映画)

4.0

ソマリア内戦に巻き込まれた南北双方の外交官がモガディシュを脱出するために国の意地を捨てられるか…という事実ベースの物語。

脱出劇のための交渉あり、アクションあり、もちろん人情ありで見応えある。

>>続きを読む

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)

3.2

どこまで書いたらネタバレにならずに済むのかよく分からないけれど、ライダー1号と2号を知っている世代には懐かしい部分も多い。主題歌にはむせび泣く。

PG12なので子供向けではないと察するだろうけれど、
>>続きを読む

Winny(2023年製作の映画)

3.3

彼に罪があるとすれば、やっちゃダメと言われていたのにサインしちゃったこと。そして、Winnyを「2ちゃんねる」で検証していたこと…。

事件の顛末も47氏も全く知らなかった。ネットツールと著作権の問題
>>続きを読む

梅切らぬバカ(2021年製作の映画)

3.1

日本映画専門チャンネルにて視聴。

社会問題にもなっている80-50問題の一つでもある。老々介護ではなく、老若介助。

世の中にはたくさん色んな人がいて、関わり関わってもらって生活が成り立つのよね。自
>>続きを読む

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)

3.9

映画馬鹿をステレオタイプに描くのではなく、才能の片鱗を見せつつ、「芸術が傷つけるもの」を淡々と語る。

派手さはないけれど、静かな感動。

スピルバーグ監督を作り上げた血筋、家族の物語。


それにし
>>続きを読む