なつかし二番館

ミス・マルクスのなつかし二番館のレビュー・感想・評価

ミス・マルクス(2020年製作の映画)
3.5
内容は他のレビュー通りで,マルクスの末娘エリノアに,社会主義者の理解者・後継者の面と,フェミニズムの活動家の両面があったことを伝えるもので,またより個人的な面を描いている。

タイトル写真は,このサイトで掲げられているポスターの画より,WOWOWオンデマンドのスチールタイトルの方が雰囲気が出ていると思いました。

劇中の言葉の面を書いておきます。
登場人物がイギリス在住2世・3世のマルクス家の人々と,教養豊かな労働運動指導者ということで,じかの労働者が台詞をしゃべることはなく,俳優さんたちの台詞は美しいイギリス英語で語られます。

劇中ナレーションで,エリノア・マルクスの原稿がエリノア役のロモーラ・ガライによって朗読される。字幕で漢字だらけの日本語にするとそうでもないのだが,イギリス英語だとわかりやすく,なんと美しく,雄々しく語るのだろうかと思った。

この辺は日本で二十世紀前半に翻訳されたリ,執筆されたりした社会主義文献が,検閲逃れにわざとわかりにくく書かれているのを,戦後の人たちが,聞いてわかる日本語に直さなかったせいだと思われます。
そこには,戦前,戦中を通じて非マルクス的潮流は翼賛皇道経済学になって,戦後追放され,一方では戦前息を潜めて細々と知識人の中だけで理解されたマルクス経済学が盛んになり,他方はアメリカ渡りの近代学派が並立することにななったという事情があります。マルクス研究では偉大な先人の訳を変えるのに抵抗があって,もとのドイツ語ではそうでもない用語(オランダ語やドイツ語はむしろ普通に科学用語も日常語で作るので,英語やフランス語渡りの語源の多い経済用語はもちろん庶民がわかるほど簡単ではない)から難解な漢語への外来語置き換えをしただけのような言い回しが定着します。

戦後は一方ではかなやローマ字で書いてわかる日本語を目指す運動もあったのに,統一できていなかったのは残念です。

この辺は,エンドタイトルの,エリノア・マルクスの紹介の中で併記される,労働権,児童保護,女性の権利,普通選挙,等の諸権利を求める運動が長く統一できていないのに通じるものを思います。