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我らの父よのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

我らの父よ(2020年製作の映画)
2.0
["鉛の時代"を生きた少年の成長譚] 40点

2019年のカンヌ映画祭に出品されたマルコ・ベロッキオ『シチリアーノ 裏切りの美学』にて実在のマフィアを演じていたピエルフランチェスコ・ファヴィーノが、今度は2020年のヴェネツィア映画祭に登場し、警視総監役で主演男優賞を受賞した作品。主人公はそんな警視総監を父に持った少年ヴァレリオで、彼の目線で"鉛の時代"と呼ばれるマフィアと警察組織との抗争時代を描いた作品である。時は1976年、裕福で平和な暮らしをしていたヴァレリオの一家は、父親の銃撃事件を目撃してしまう。冒頭10分で登場するこの銃撃シーンは少年にとって中々衝撃的で、後に視点を様々変えたり、情報を加えたりして何度も繰り返し脳内で再現することとなる。父親の襲撃によって社会における父親、そして自分の立場、そしてより切実な問題として自分を含めた家族の命の危機を準備なく叩きつけられたヴァレリオは、世界の広がりを自分なりに消化しようと躍起になる。そして、自分なりに考えた結果の行動が尽く家族を心配させることになる。 

ある日、家の前でサッカーをしていると、クリスチャンという年上の少年が話しかけてくる。友だちのいないヴァレリオは学校を抜け出して彼と遊びに行くが、両親を巻き込んだ大騒動となってしまう。しかし、問題が収束しかけるとクリスチャンはどこかへ消えてしまう。彼は果たして実在するのか?この問いは意図的にはぐらかされたまま映画は進んでいく(家族全員と話してるので確実にホンモノの人間だが、それにしては超人的な行動と謎が多すぎる)。ヴァレリオ少年の内的な問題を映像にするという点で空想上であるかに関わらずそれを話せる友人が登場するのは確かに表現はしやすいのだが、はぐらかし続けることがノイズになっていて、映画としてあまり上手くいっているようには思えなかった。ホンモノの人間にする必要性がどこにもないのに実在させたことで、クリスチャンの挿話が生まれてしまう残念さ。意味不明なハッピーエンドが最高に気味悪い。

それよりも生命の危機についての方が切実で、例えばトンネルの中に渋滞で閉じ込められたシーンや後ろからバイクが追いかけてくるシーンでは、どこから命を狙われるか分からないという息が詰まるような緊張感があってとても良い。どのシーンもこういうパリッとした緊張感があれば良かったんだが、そういうのから逃れたいという映画なのでそういうわけにもいかず。父親との関係性、クリスチャンとの関係性、家族との関係性、社会との関係性、どれをとっても半端にしか見えないが、確かにピエルフランチェスコ・ファヴィーノの背中は大きく見えた。他のコンペ作品は観てないが、男優賞受賞は納得はできる。

これで2020年のヴェネツィアコンペは半分鑑賞したことになるが、実はベルリンやカンヌよりもヤバいと思う。
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