ゆめちん

親愛なる同志たちへのゆめちんのレビュー・感想・評価

親愛なる同志たちへ(2020年製作の映画)
3.5
親愛なる同志たちへ

今まさに観なければならない作品だと思い、公開からだいぶ経ちましたが、時間を合わせ鑑賞してきました。

1962年、フルシチョフ政権下のソビエトで発生したノボチェルカッスク虐殺事件をきっかけに、党に忠誠を誓っていた、市政委員でシングルマザーであるリューダの心の葛藤を描いていく。

虐殺はもとより、ソ連が崩壊するまでの30年間もこの事件が隠蔽されていたことにまずは驚く。独裁政治の非情な大虐殺事件を描きつつ、事件の隠蔽にも迫った映像は、何もかもが現在進行形の "ウクライナ情勢" と重ね合わせて観ずにはいられない。

本作もモノクロで撮影されているが、"カモン カモン" や "パリ13区" とはまた一味違い、当時の時代の雰囲気や状況がリアルに感じられ、スタンダードなアスペクト比画面にしたことで、抑圧に対して追い詰められる人々の閉塞感がより深く伝わってくる。

体制側の人間であるリューダの視点で展開するのがある意味ユニーク。彼女の党への強い忠誠心からの揺らぎ、心の拠り所への疑念や崩壊、そこに母親としての子供への思いが加わり、非常に濃厚な作品になっている。ただ前半の傲慢で高圧的なリューダの姿を見ているだけに、複雑な気持ちになってしまう。

この虐殺事件から60年が経った今、何故同じ過ちを繰り返すのか、ただ憤りしか覚えない。ラストのリューダの言葉は、今となっては皮肉にしか聞こえない。今の "ウクライナ情勢" を見てどのように思うのか、是非彼女に聞いてみたい。
ゆめちん

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