りょう

親愛なる同志たちへのりょうのレビュー・感想・評価

親愛なる同志たちへ(2020年製作の映画)
4.0
 ロシア映画で史実に基づく物語、しかもモノクロとなれば、かなりドキュメンタリータッチの作品を想像しましたが、映像も演出もオーソドックスなフィクションの作風でとても観やすかったです。しかも序盤からの時系列そのままに、3日間の起承転結が明瞭でした。
 フルシチョフ体制の当時のソ連のことはわかりませんが、ソビエト共産党、KGB、ソ連軍がそれぞれの組織と指揮系統で、微妙に対立構造となっているところが興味深かったです。共産主義国家の政治・行政体制は、もっと一枚岩的なイメージでした。ソ連軍の将校が「我々は敵国から国家を守ることが使命であって、国民には発砲しない(憲法違反)」みたいなことを言っていたのは、すごくまっとうで驚きました。
 現代のロシアのような政治体制とは次元が違ったのかもしれません。社会主義や共産主義の壮大な実験は失敗しましたが、それそのものが悪政を招き、国民を苦しめるわけではありません。スターリン体制の独裁や粛清は言語道断ですが…。
 このノヴォチェルカスク虐殺事件も極悪非道で、労働者の国家がこんな事態になっていたなんて、隠蔽するしかなかったはずです。それを2020年のロシアで映画化できたことも驚きました。
 主役のリューダが女性としてカッコいいです。政治的な思想はともかく、ほぼ男性社会の組織でも毅然と主張したり行動したり、国家元首をめぐって娘と大げんかのシーンも凄味がありました。年老いた父親とのコントラストも効果的です。
 終盤に向かって閉塞感と絶望感が漂い、どっぷり悲壮感に浸っていると、驚愕のエンディングが訪れます。物語としては悪くありませんが、それまでの演出からすると、映画としてはかなり大胆な結末です。
 個人的には、ソ連時代のミハイル・ゴルバチョフ書記長を主人公にした映画を観てみたいです。自分が高校生のころにペレストロイカを推進していた彼のファンでした。ロシアが無理なら欧米で(英語劇でもいいので)映画化してほしいです。
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