いの

ニューオーダーのいののレビュー・感想・評価

ニューオーダー(2020年製作の映画)
4.5
これは恐怖を煽る映画ではない。これは今まさに起きている現実をあらわしているだけだ。これがもしホラーだとするならば、それはカーツ大佐の “The horror! The horror!” から「!」2つを取り除いたような映画であり、言葉は全て沈黙というホールに吸収されていくような映画だと思う。

わたしは、ほとんど目をそらさず観ることができた。監督のここまでの作品を鑑賞したことが功を奏したのだと思う(えっへん)。信頼できる監督だと思えたから。だから最後までちゃんと観ることができた。監督の姿勢は公平だしクールだしある意味においては優しいのではないかとさえ思える。苛酷な場面でも、実は瞬間しか映さなかったり、音のみで瞬間すら直には映さなかったり。監督はこれまでも、みかけ富裕層の 内実はりぼてさに激しい揺さぶりを掛けてきたのだと思うけど、それも糾弾というのともやっぱり違う。富裕層も貧困層も等しく描かれているような気がする。〈追 : と書いたのはすごく間違ってるような気がしてきた。結局、女や貧困層などの いわゆる弱者の善意などはどうでもよく虐げられ、力を持つ者は結局は…(略)。と、いつまでもこの映画について考えてしまう〉

人々は、この状況では沈黙するしかない。大混乱のなか、歩いているときもバスのなかでも、誰も口を開かない。口を開いたら、事態は更に悪化することがわかっているかのように。あきらめとも虚無とも思考停止とも違う、ただただ大混乱では人はそうするしかないのかもしれない。(いや、やはり諦念かもしれない)

「死者のみが戦争の終わりを知る」のだという。生者にとっては、なにも終わっていない。終わりは見えない。いや、むしろこれが始まりなのかもしれない。なんということだ。
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