「メキシコもの」の新たな傑作爆誕。。(『メキシコ』で括って申し訳ないが・・・)
「ボーダーライン」のレビューでも触れたが、私が「メキシコもの」に惹かれるのは、共通して描かれる「空恐ろしさ」に蠱惑的な魅力を感じるから。
「恐ろしさ」ではないの。
「空恐ろしさ」なの。
空恐ろしい:言いようもない不安を感じる様
これです。
自分に危害を加えて来る人の背景的読み解きが不可、圧倒的ディスコミュニケート、根本の行動律が一ミリも把握できない、そういう対象に対する「理解不能な恐怖」、これが空恐ろしいということで。
そういう意味で本作、「空恐ろしい」映画の極北と言えると思います。
圧倒的に全貌が掴めず、直近数十秒先の展開しか見えない五里霧中の状況で、ひたすら我々の予想を悪い方に悪い方に裏切られ続けるジェットコースタームービー。
(こんなものを撮るな…いや撮ってくれてありがとう…いやしかしきちい…)
クライマックスの展開については多分人によってかなりの抵抗があると思われ、こういった映画に免疫のない方だとトラウマ必至ではあるが、そこに至るまでの過程は(不謹慎ながら)ジェットコースターなのでとても面白い。。
ほいでまた、本作、圧倒的に逃げ場が無い。
この「逃げ場の無さ」の描き方も本当に嫌らしくて。
逃げても逃げても、それでもまだ追ってくる、みたいなのって、甘かったんだなって。
本作は、「逃げ切れる」のよ。ただ、逃げ切れた先、より高次なところに辿り着いた先、そこ自体が実はより根深い恐怖の世界、という。
お化け屋敷から必死の思いで脱出したら、外にもっと怖いお化けがいた、みたいな。
この構造を複数階層構築しやがってるので、心の根っこから折れるやつです。
あと本作、映画的表現が巧み過ぎて、ところどころ、暴力描写どうこうじゃなく、Jホラー表現的に怖いシーン多々あり。
あの、家に暴徒が入ってくるところのカメラワークよ。。いったん驚いている人々にカメラ向けておいてからの、パンしたらあれ。。数か月分の鳥肌立ててしまったわ。
結構激しめの性暴力描写もあり、皆にお勧めできる作品ではないかもしれないが、鑑賞したら確実に脳裏に焼き付く作品であることは間違いない。
平和って、原初的に存在するものではなくて、人類が長年をかけて緻密に構築してきた結果であるし、それはあくまでもギリギリのバランスの上に成り立っているもので、ふとした拍子にナチュラルに崩壊するもの。
ということを網膜からの情報としてぶち込んでくる一作。
子どもへの平和教育とかにガチに効くのはこういう作品では、と妄想。