あんがすざろっく

いとみちのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

いとみち(2020年製作の映画)
5.0
6月下旬にこの作品を見てから、今に至るまで、完全に虜になってしまいました。
追記に次ぐ、再追記です。
わいは‼︎

多分、これで追記はないかな。


青森の津軽弁って、聞き取るのが大変。
よく旅番組とかのインタビューとかで、津軽のお婆ちゃんやお爺ちゃんが出てきて、何を喋ってるのかテロップが出てきますが、これはこれで自然で良いと思います。
そこだけ見れば、意味が分からなくても充分に絵になるんだけど、本作を通して見ると、何となく会話の内容が掴めてきて、しかも津軽弁が心地よく聞こえてくるという。津軽弁は方言を通り越して、青森の文化なのだな、とさえ思えてきます。




本作のタイトル「いとみち」とは、三味線を弾く時に指に出来る「糸道」のことを言うのだそう。

津軽訛りが強く、人前で話をすることが苦手な女子高生、相馬いと。
祖母と父との3人暮らし。
祖母の影響で小さい頃から津軽三味線が大好きだったが(名前の由来も三味線の糸道から)、いつからか弾くこともなくなった。

人見知りを何とかする為にアルバイトを始めようと、いとなりに一念発起。
そして見つけたのが、青森市内にあるメイド喫茶だった…


「おげぇりなしぇえまし、ごすずんさま」

アルバイト先には、少し頼りなさそうな工藤店長を筆頭に、永遠の22歳(年齢非公表)にして、いとの教育係の幸子、漫画家を夢見る智美が働いていた。

人と接するのが苦手ないとだけに、慣れるまでには時間がかかったが、アルバイトを続けていく中で、いとも少しずつ成長していく。
そんな中、事件が起きる…



キャストは、いとの父に扮する豊川悦司さんと喫茶オーナーの小坂大魔王さん以外は、どなたも初めて知る方達でした。

主人公の相馬いとに扮するのは、駒井蓮さん。
何となくモサっとした感じと、高身長に手足の長さが特徴的ですが、三味線を弾き始めると、だんだん目の色が変わってくる。
ご本人は猛特訓を積んだとのこと。
津軽三味線、続けて欲しいなぁ。

いとの父(とっちゃ)には豊川悦司さん。
山を愛する大学教授であり、文句は言わないものの、メイド喫茶は「あんなの水商売だ」とあまり良い印象を持っていない。
(とっちゃが持ってくるメイドの資料が面白い。
メイドはメイドでも、これじゃねぇ😅)

いとの祖母(ばぁば)には、西川洋子さん。
実際に津軽三味線の名手でいらっしゃるようで、
その存在感は本作でも抜群。
孫のいとに、どんなに煙たがれても全く動じない懐の大きさと、姿や立ち振る舞いが、どれも実に魅力的です。


メイド喫茶の店長、工藤には中島歩さん。
店の従業員には尻に敷かれている感があるのだけど、彼だからこそ醸し出せる雰囲気が、店をちゃんと成り立たせています。
押しは弱いんだけど、彼なりに店を守ろうとする責任感を身につけていきます。
ちょっと佐藤隆太さんに似てますね。


口は悪いけど、喫茶の母親的存在の幸子には、黒川芽以さん。
彼女が作るアップルパイが、店の人気商品。
この幸子のキャラクターの立ち位置が絶妙で、徐々にいとの心を解きほぐしていきます。
いとの髪をすくシーンはもう泣けてきます。
「首もぐど」がイイ。

若手のエースメイド、智美には、横田真悠さん。
モデルさんなんですね。
どこかの雑誌で見たことあるかも知れない。
その可愛さとは裏腹に、決してお客さんには媚びず、「できることはやる、基本自信ないから」という芯の強さも持ち合わせています。


いとの親友となる早苗には、ジョナゴールドさん。
あの王林ちゃんの所属していた、りんご娘のメンバーなんですね‼︎
青森では知らない人がいないくらいの人気だそうです。
いととのシーンがとても楽しそう。




かつて山形の女子高生達がジャズバンドを結成する「スウィングガールズ」という作品がありましたが、こちらは山形弁とは言え、作風は誰にでも楽しめるようにマイルドなものになっていました。

本作は、テンポよく進む物語ではないから、第一印象とは少し違ったものに映るかも知れません。
三味線の奏でる音色が、作品で度々登場する岩木山の姿を思い起こさせ、きっと青森に吹く風は、こんなに荒々しいんだろうなぁと勝手に想像してしまいました。


字幕が必要なんじゃないの?と思える部分もあるやも知れないけど、ここは見たまんま、あるがまんまの作品を楽しむべきですね。

「まま、け」。「か、け」。「へばね」。

見ていると、ちゃんと意味が伝わってきます。



初めはいとが三味線弾き始めた時点でsmoke on the waterとか始まるのかと無意味に期待しちゃったけど、いとの親友早苗と話をするきっかけになるのは、日本が生んだヘヴィメタルバンド、人間椅子。
青森出身だったんですね。
ハマって聴いた訳ではないけど、中学時代にブラックサバス大好きな友達の家で流れていた記憶。
中学でブラックサバスって、なかなかの友達だったなぁ(笑)。


オリジナル脚本の作品かと思ってたんですけど、実は原作の小説があります。

原作では、いとは小柄な少女として描かれており、ばぁばはヴァン・ヘイレンが大好きという設定だとか。
俄然読みたくなってきたんですけど😆


全てのシーンに意味があって、全てのシーンが繋がっている。この作品自体が、糸のように一本の道のように繋がっている。
「わぁの歴史はまんだ、どごさも見当たんね」
これは、「いとが辿る道」でもあります。


日本人だからこそ分かる、日本の映画。
本当に、日本の映画を見て、日本に生まれて良かったなぁ、と心底思いました。

メイド喫茶と三味線という組み合わせは奇抜な入口で、実は青森の歴史であったり、津軽の方言や文化を描きながら、何に対しても下向きな少女が、少しだけ、ほんっとにちょっとだけ、前に進む物語。

平野から臨む岩木山と、岩木山から見下ろす平野の対比が見事。ラストシーン、大好きです。


追記: 結局3周しちゃった😆




再追記

見た後にすぐ原作小説を取り寄せまして。
越谷オサムさんによる、3部作になっています。
ひょっとして、と思ったら、やっぱり越谷さんは埼玉県越谷市在住の方でした。
青森の方ではなかったんだなぁ。
考えてみると、劇場版の監督は横浜聡子さんだし(横浜さんは青森出身)、
青森と埼玉と神奈川の合わせ技みたい。

脱線しましたが、原作あまりに面白すぎて、4日程で読破してしまいました。ライトノベルというジャンルなんでしょうか、とても読み易かったです。
度々涙腺崩壊。電車の中で読むのは大変でした。

原作のいとは、小柄で、とっちゃはばぁばの実の息子という設定になっていますが、読み終えて改めて、映画は原作の魅力を見事に抽出していると感じました。
智美はいとにセクハラまがいのスキンシップを繰り返し(心に中年のおじさんを飼っている)、幸子といととの関係性は、より深く書き込まれています。
中でも、いとの親友早苗は、70年代ロックが大好きとあって、彼女の口から飛び出すのは、AC/DC(‼️)や、「ずぃずぃとっぷ」。
ばぁばはヴァン・ヘイレン大好きで、3作目でとんでもないことになります。
早苗とだったら、話が合うだろうなぁ。
できることなら、この原作まるまるアニメシリーズ化して欲しい‼︎ばぁばの方言描写だけがネックだけど。この後の話も読んでみたい。

他にも沢山のエピソードが詰まっており、劇場版がお好きで、まだ原作を読まれていない方には是非オススメします。

劇場版のBlu-rayも近く購入するつもりです。
失礼な言い方になりますが、後世に残るような大傑作ではないんですよ。
でも、心を捉えて離さない。
何でこんなに惹かれるんだろうなぁ。
やっぱり、主人公が周りの人達に支えられて、少しずつ変わっていく青春映画というのが、安心感があるのかも知れません。
こういうこじんまりした作品の方が、僕には向いているのかな。
津軽弁も、心地よく聞こえるんですよね。

「がんばっていきまっしょい」も、久しぶりに見たくなりました。

駒井蓮さんの活動も、とても気になります。
朝ドラのちむどんどんにもわんつか出てましたね。
これからもっともっと活躍して欲しいな。

映画も、原作も、全部ひっくるめて、「たげめごい」作品です。
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