エヌシマゴリラくん

8時15分ヒロシマ 父から娘へのエヌシマゴリラくんのレビュー・感想・評価

4.0
評価:一見の価値あり。
埋もれるのが勿体ない、1945年8月6日8時15分を鮮明に描いた作品。

原作は臨床心理医である美甘章子さんが書いた「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」。
8時15分とはまさに広島に原爆投下をされた時刻なのだが、その当時の広島市内(現在の幟町付近)にいた美甘福一さん・進示さん親子の実話。
被爆後も二人一組となりなんとか生き抜いていくが、ある日父福一さんが消息を絶つ。そして形見として残るのが、焼け跡から見つかる8時15分を指し示す歪み切った時計。

この時計は1983年国連本部に原爆の悲惨さを伝えるために展示をされたが、89年進示さんの娘・章子さんが国連を訪れた際にその時計が無くなっていることに気づく。そのことを進示さんに伝えたのちの言葉が響く。
「何かを失うときは何かを得るとき」

その盗難事件の報道をきっかけに過去に失ったものを取り戻す様は、言霊というべきか。ストーリーはもちろん、特筆すべきはやはり時空を超えて1945年当時を完全再現してくるビジュアルであり、白黒写真では理解し難いおどろおどろしさや煙たさ、焦げ臭さ、憲兵への苛立ちなど、教科書上の出来事ではなくリアルの出来事であることを再認識させる映像作家としてのJ・R・ヘッフェルフィンガー監督の力だろう。アメリカ映画ながら、実に日本映画のようであり、一度我々はきのこ雲の下で起きた事実を受け止めるべきだ。