Rocko

海の上のピアニスト 4Kデジタル修復版のRockoのレビュー・感想・評価

4.8
オリジナルを劇場で観たかDVDで観たかも忘れてしまっていましたが、4K修復版を観て自分が前に観たのは間違いなくDVDだったと確信。
オリジナル35ミリネガフィルムを4Kスキャンしてトルナトーレ監督による監修のもと映画『ライフ・イズ・ビューティフル』なども手がけてきたカラースーパーバイザーのパスクアーレ・クズポリと共に修復作業が施された今作は高画質すぎない昔の味わいを残しつつ人物や海の映像が綺麗に映し出されることにより迫力が増しています。

下から見上げる船のショットや大海原の映像は海洋恐怖症の方は耐えられないのではと心配になるほど迫力と深みがあり、ピアノの音色とエンニオ・モリコーネの創り出す美しいメロディーの表現力と現代の寓話的な脚本との総合芸術に感化され何度も涙が出てきてしまいました。

トルナトーレ監督にとって初の英語作品ということもあり、詩的で哲学的なセリフがわかりやすくスっと心に響きます。トランペット奏者マックスが真面目に説く幸せの概念が主人公1900の生い立ち故に響いている様子がなく、何とも形容しがたいティム・ロスの表情が役者でとても面白いのですが、自分なりの信念に沿って話す1900のセリフにはハッとさせられることが多かったです。

アメリカの象徴的である夢や自由を表す広大な土地が陸であり、1900が生まれ育った船が彼の人生=ヨーロッパ文化を表しているように感じます。船を降りるか降りないかは単純な恐怖だけでなく、アメリカの無限に広がる自由に対して文化や伝統を重んじるヨーロッパの限られた空間での自由との対比であり、無限に広がる欲望や資本主義への批判なのではないかというのがマックスがトランペットを売りに来た冒頭のシーンを思い返すと自分なりの解釈ですが納得が行きます。

ピアノの才能がありながら孤独をベースに映し出される純粋さを通して描かれる文明社会という見方は20年前には気づくことが出来なかったので、今回見直して作品の深い構造に気づいたことでオリジナル鑑賞時よりスコアをかなり上げています。若いってバカですね💦
完全版を観てから決めようと思い満点にしていませんが、お涙頂戴の感動作とは全く違う次元での感動作です!

●2020年141作目●
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