けんぼー

水俣曼荼羅のけんぼーのレビュー・感想・評価

水俣曼荼羅(2020年製作の映画)
4.5
水俣病は終わっていない。
もはや学校の授業で取り扱うべきヤバい国「ニッポン」の一面と、「人間」の美しさ、強さ、面白さを描く原一男監督の集大成。

以前から気になっていたのですが、やっと地元新潟で公開となったので6時間という上映時間を覚悟のうえで鑑賞。もちろんこれまでの原一男監督のドキュメンタリー作品もすべて鑑賞したうえで臨みました。

結論から言うと、6時間はあっという間だったし、今まで水俣病について何にも知らなかった自分を恥じたし、私たちが住む「日本」という国の政府の対応に絶望しました。

政府、役所と民間人との法廷争いを描いたという面では、アスベスト被害者と国との戦いを描いた原一男監督の『ニッポン国VS泉南石綿村』に物語の大筋は近い感じですが、そこに、実はまだ謎が多い「水俣病」の解明を続ける二人の医師を追った医療ドキュメンタリー要素、実際の水俣病患者自身の「人」に焦点を当てた人間ドキュメンタリーとしての要素が混ざった大作です。

『ニッポン国VS泉南石綿村』でもそうでしたが、本作でも最高裁で判決が出ているにも関わらず、被害者(原告)の要求を全く受け入れない政府や役所。
そのマニュアル通りでその場しのぎ丸見えの対応には怒りを通り越して呆れて笑ってしまいました。
そして同時に絶望。
「こんな国に私たちは生きているんだ」と。
「もしもの時に国は私たちを助けてはくれないんだ」と。
怒りと絶望と悲しみがごちゃ混ぜになります。

ただ、本作は原一男監督もインタビューなどで話されていますが、あくまで「エンターテインメント作品」。
『ニッポン国VS泉南石綿村』は政府、役所に対する「怒り」が原動力となって全編進んでいく感じなのですが、本作はそれに加えて「水俣病がどういう病気なのか」を解き明かしていく医療系ドラマとしての「interesting」という意味での「面白さ」もあります。
「水俣病は末端神経の障害」という長年の定説に疑問を抱き、独自の検査を行うことで「水俣病は脳の機能の障害」という事実を明らかにしていく二人の大学病院の医師の孤立無援の戦い。
脳の障害によって「感覚がなくなる」=「幸せを感じられなくなる」という悲しさを涙ながらに訴えるシーンがかなり印象的でした。

また、水俣病患者の「人生」を描いている点もとても良かったです。
水俣病を患いながらもお嫁さんをもらい、夫婦二人三脚で現在もたくましく生きている男性の話や、恋多き水俣病患者の女性がこれまで恋した男性たちと思い出話をする恋愛の話。

特に夫婦の話の中で、二人が新婚旅行で泊った旅館に行って夕食を食べながらインタビューするシーンがとてもステキで大好きです。
お互いを支え合いながら生きていることがわかる、奥さんのさりげないサポートと、「初夜」の思い出話を顔を真っ赤にして恥ずかしそうに話す男性の姿に涙が自然と出てきました。

このように、我々が生きる日本に現在進行形で残されている大きな問題を提起したうえで、その中で戦う人たちの強さや、一人の人間としての魅力を描いた本作は、原一男監督のこれまでのドキュメンタリーの集大成というべき最高傑作だと思います。

これを鑑賞した私たちも、これで「水俣病」を終わらせず、考え続けながら、今の国や政府に対して私たちが出来る行動や意思表示をし続けていく必要があると強く感じました。

水俣病は終わっていない。

2022/5/8観賞