かるまるこ

水俣曼荼羅のかるまるこのレビュー・感想・評価

水俣曼荼羅(2020年製作の映画)
4.6
水俣病を研究する二人の医師がまるでホームズとワトソン。脳という密室で起った「個」に対する殺人を彼等が解き明かしてゆく様は良質なミステリを読んでいるかのようだった。
しかもこれがかなりの難事件で、世の中の無理解もあってなかなか「個」としての犯人が見つからない。何故ならそれらはすべて会社や国といった茫漠とした「組織」であり、担当者として矢面に立たされる役人はそもそも、患者たちが泣く泣く手放さざるをえなかった「個」を立場上持つことが許されておらず(と思い込んでいるだけだと思うのだが)、「個」を捨て、組織に忖度することこそが正義だと信じる彼らに、水俣病患者たちの恐怖や苦しみなど永遠に理解できない構造になっているのが恐ろしく、やるせない。

じゃあ重く辛気臭いシーンが6時間続くのかというと、これが意外にそうではなく、むしろ逆にコメディ映画かと思うほど笑いどころがあるのには驚いた。

特に、患者の遺族から提供されたホルマリン漬けの脳をユニクロの袋に入れて大事そうに抱え、ウッキウキで帰るくだりは、その脳への偏愛っぷりがなんとなくホームズっぽくて、思わず笑ってしまった。

本当に奇跡ような映画で、これも一重に水俣病患者とそれを取り巻く人々の人間的魅力のおかげであり、同時をそれを逃さずに映し撮った原一男監督の手腕と15年という歳月、彼らとの地道なコミュニケーションの積み重ねのなせる技であることは忘れてはならないと思う。

世の中を変えるのはいつでもそうした地道な行動の積み重ねなのだと改めて思う。

15年かけてひとつの作品をつくる。こういうところはドキュメンタリーには敵わない。劇映画ではなかなかない。
ドキュメンタリーだからといって食わず嫌いせず、ひとりでも多くの人に観て欲しいと思う。
6時間なんてあっと言う間。ヘタな映画3本観るよりもずっと満足感がある。15年という年月を思えば短すぎるくらいだし、しかもとにかくクソ面白い。ずっと面白い。頭で水俣病の病像について理性的に考えながら笑いながら泣き心の底で深く唸る。どうにかなっちゃうんじゃないかと思うくらい感情を揺さぶってくる。泣けるだけの映画、笑えるだけの映画は数あれど、これだけすべての感情をまぜこぜに動かしてくる作品そうない。
まさしく「曼荼羅」。
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