小田香の短編。列車の窓のワンカット25 分の美しい傑作である。窓の映り込みが面白い。光が逆光だと曇って汚れてるガラスの表面だけになり、順光になってくると景色が見えてくる。さらに、コンパートメントなので廊下側の反対の景色も写り込んでくる。多重的で刻々と変容していく。トンネルに入った瞬間だけ車内のカメラと小田香とスタッフの女性が浮かび上がる。まるで窓が変幻自在のスクリーンのようだ。この手法は「鉱」で坑道の闇が乱舞するヘルメットの懐中電灯の光線で変幻自在に変化する途方もない美しさと共鳴している。
「声」の主題。いろいろな声で初めての思い出が語られる。「子供の声」「反響する声」は小田の十八番だ。「どんぐりころころ」の歌。そして通奏低音となるのがレコードの針のブツブツ音。このブツブツ音が素晴らしい。
「文字」小田はタイトル書体、手紙など「文字」にこだわるが本作ではテロップだ。テロップの出し方に間があってこだわりがあるのが面白い。テロップの間は初めて見た。
手法は全く違うのだが、ジョナス・メカスと響きあっている。