ひば

ベイビー・ブローカーのひばのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
4.5
雨は冷たいものだ。なるべく多く、なるべく大きくあたたかい傘が必要だ、子にも母にも。母親の役放棄を罪人として扱い他人事ぶる社会。一方で子供を市場価値に置き資本にする社会。子供の迎え方を知らぬままただ子供に役目を求める大人たちの傲慢さ。透明化した父に見向きもしないまま、捨てたのか、頼んだのか、貸しただけか、置かれた赤ちゃんに一人ひとりがどう感じるかどのキャストの目を通じて見るかを終始問われる映画であり、たった数ヶ月で命を試される幼子の幸せはどこにあるかを社会の一員として向き合わざるをえない。ちなみに日本には熊本に唯一存在する赤ちゃんポスト、様々な批判を受けていることは想像できるだろう。韓国という儒教の国では女性は夫の家に従属する存在なので未婚の母(ミホンモ)などタブーであり、海外に出される養子数は韓国が世界一、同時に出生率も韓国特にソウルは0.64で世界一であると知った。あるドキュメンタリーでは、親の力が強ければ決断できるのはほぼ本人ではなく、当事者(だいたい女の子)の親が相手家庭を紛糾し罪人のように座り俯く男の子とその家族が多く、世間体を気にした親たちにより娘ではなく妹として迎えることを条件付けられた女の子が「娘から"姉さん"と呼ばれるなんて堪えられない」と嘆いていた。親になるのに万全な準備が整った人間などどこにもいないだろう。排除する理由を探すのはもうやめろとずっとそう言っている。見易い映画ではある。問題の多さで多角的過ぎてよくわからんうちに過ぎている。日本の脚本を韓国映画でやったという印象はうまく言語化できないがある。説明の多さとか、言葉回しとか。多分韓国がつくったらこうはならない感じはある。日本脚本が韓国でつくられて、また日本に入ってくる妙な違和感ってのがなんとなくある。良くも悪くもの意。言語の訳し方、ニュアンス、文化背景がさりげなく介入してる。良い意味では、母親ではなく周りの男たちが赤ちゃんを熟知して自主的に関わり世話をしている描写をあれほど自然にはできなかったと思う。言い方はあれだが昨今のムーブメントは中絶であるが、既にこの世に生まれた命をどう考えるか誰が支えていくのかにスポットが当てられているのでさほど世間に逆行するような作品ではなかったと思う。だからこそ韓国作だったらもっと現実的な厳しい目が向けられると考えられるが、この作品にはあまっちょろいとしても幸せに生きてほしい願いがこめられているはずだ。
わたし個人の陶酔の話だがわたしはカンドンウォン様に世界一を捧げた身、2020年には既に是枝監督映画に出演することはわかっていたが、ソンガンホ氏、ペドゥナ氏、IUちゃんに加え…とロイヤルストレートフラッシュムービーになっていくある種の恐ろしさに日々震えていたものだ。彼を好きなのは自分がどういったロールモデルになるかの先見性が明確にあって作品選びをしているかが伝わるからだ。言葉より迫る瞳の強さ、常に悲しそうな言いようのない哀愁、青年と大人の間をさ迷っているような声色、どことなく死の気配を纏いながら長くトップに佇む貫禄と今もなお顕在の初々しさが共存しふんわり滲み出る内気さはマイナスに働くことはないんだと。優しく誠実で聡明で品があり思慮深い、様々な感情を内包した成熟した内気さ。厭世的な人ではないのに厭世的な役がバリハマりしてしまい求めてしまうような役が多くきっとみな妙な背徳感やロマンを抱いてしまうんだろう。社会と向き合いしっかり見ている点ではマッチョな男として座に就きつつマチズモを自覚した役選びもするところにおいては庶民の声または庶民間での権力層といえる役柄を好むソンガンホや弱者の味方ペドゥナにも共通し、また『マイディアミスター』で今作にスカウトされたIUも実生活で寄付の女神と呼ばれるほどの貢献をしており、ほんとうに信頼できる良い役者を集めたものだ。なぜ俳優の思想まで含むのかと言われれば、個人的には、ある種の特権を持っていながら弱者やマイノリティ役にフリーライドして利己に基づいた商業利用をするのみの俳優には惹かれないだけだ。自分の思う完璧な人に出会ったので(それは完璧というか当然のことであると気付いた)彼のいる世界に自分がいる、この世界にはもう彼がいるので、自分の思うパーフェクトな人についていきたいと私の心にこの人は刻み付けた。やはり劇場に映る好きな人がわたしはこの世で一番好きだ。彼自身の「諦めるという言葉は僕の人生にはありません」と「僕が頑張ればいいので」発言がスイッチで私も韓国語を勉強し始めて1年近く経ったがまだまだ追い付けそうにもない。韓国は言語文化歴史なにをとっても深くいり組んでおり、公正とオープンな姿勢を保とうとする熱意は国をこえ伝わってくる。今や目指すべきはお隣の国ではないかと感じるほどに。
彼は以前サポート役の際欲が出ないのかという問いに「自分自身が目立つことより映画自身を引き立てることが大事なのだ」と言っていた。今作の彼の役柄は動機付けは正直不確かである。しかしそれで良いのだろう、あなたの話ではなくこれは母親の話なのだから。観覧車で光を浴びる彼を前につい見惚れて戸惑ってしまったが非常に抑えられたシーンでありながら抜群の効果をもたらした良いシーンだった。あの伸びた手に、この野郎はブローカーだし好きなとこはたいしてないし何一つ解決なんかしないけどそれでもいいのだと、時にそういう一瞬を人間に思わせる。生涯忘れることはないだろう。閉ざされた視界での彼を知り得ることはない。底知れぬ深い海と届かない高い星でさえ私たちは出会う。わたしには海も星もあのずるい人間のなかに見える。


2022.6.27 再見
母と。『万引き家族』より全然好きだと言っていた。押して左!で会場がアガる感じ2回目もそうだった、あと眉毛も。扉から入ってきた人物に一瞬悲哀の表情になるドンスが心に残る。上映後に「あの神父の…怖かった…」と言っていたミドルエイジの方がいて『プリースト』か『渇き』かどっちの話してたのか気になってしょうがない


ちなみにこれはわたしが視聴数5000万に貢献してしまった夢か現か動画 https://youtu.be/QldnJN3u5Z0






2022.6.5 監督のQ & A (ネタバレあり)
Q, 韓国プレミアどうだった?
空港が揺れてた。VIP試写会で大騒ぎの賑わい。ソンガンホが男優賞とったので祝い一色

Q, CJエンターメント含め全韓国企画にしたり海外撮影とは何をもたらした?
新鮮。日本に飽きたのではない。文化の違いをこえ仕事をすると映画はどこも映画。次にフィードバック

Q, 家族三部作的に掘り下げた理由
『そして父になる』の時「女性はすぐ母親になれるが男の父性の獲得が課題」といった風にしたら「女だってすぐ母性が芽生えるわけじゃない」と言われ反省した。『万引き家族』では産んでないけど母になろうとする女性。創作で母親になっていく話を。『そして父になる』の反省をこめてつくったのが『万引き家族』と今作

Q, 私(質問者)自身母性がわかなかった。別のところから見ていた刑事の気持ちもわかった。赤ちゃんはすぐ成長するがスケジュール対応は?
コロナ中だしオーディションもできない。画像選びをして、周りの音によく反応する子を選んだ。奇跡的シーンの連続。人を目で追ったり頬に触れたり。画像は生後1ヶ月から。撮影は3ヶ月からスタート。終わりは6ヶ月。寝返っちゃうときはNGだったけどあの子からのNGはない。ミルクを飲ませるシーンに両親が時間をずらしてくれたり助けがありがたかった。救急隊員が常にいて旅について来てくれた。出番なしで済んだ

Q, 多面的である。赤ちゃんの幸せとは?それは誰にある?ソヨンがいいのか?雨から始まり晴れたので傘が差されたのか?と思うがソヨンにも問題はありそう
大体その通りだが誰に寄り添って見るかで違うだろう。3つの箱を意識した。ベビーボックス、ピックアップする車、箱内のつながりはいつかは終わり社会という箱に。いられる人はそばに、いられない人は遠くから。箱からみんな見てる感じ

Q, ヘジン役ら子役に対しては心理/肉体的にどうサポートを?『万引き家族』で安藤サクラが脱がされたと聞いた。俳優は大丈夫?
『万引き家族』のハラスメント問題については安藤さんには話していた。僕の弁明となってしまうが。ケーススタディになる形で差し出して勉強会したいと思っている、アナウンスするのでもう少し待ってほしい。脱ぐシーンはちゃんと話した。こういう見え方がする上でちゃんと話した。今作は負荷のかかる描写はなかったと思う。施設の子くらいか。男の子(ヘジン役だったと思う)には台本を渡さず。勘のいい子でやんちゃ。バラバラになるのはわかってたみたい。カンドンウォンがいなかったら大変だった。撮影ない時もずっと遊んでくれた。レゴを買ったりスケボーで遊んだり。撮影後カンドンウォンに一番会いたいと言ってた。撮影後半では気付くと彼の隣にいた。配慮されていたと思う。セクハラパワハラしているつもりがなくても権力性で見えにくくなってしまい可視化が難しい。仕事量を増やしてしまったりする。入浴シーンを撮っている時インティマシーコーディネーター同行の上事前に相談する形に。より安全な現場を目指している

Q, ドンスの「君を許すよ」というシーンが泣けた。罪を犯した全員が裁かれたがサンヒョンだけ罰を受けない。外から見るしかないのか?
サンヒョンは罪を犯しあの子を守ったのでもう戻れない

Q, 『3人の名付け親』『東京ゴッドファーザー』的。刑事が追う話にしたのは?
『3人の名付け親』を見直した。悪人が1回巡って良い話にしようと思った。刑事はブローカーと母を誤解している。それが私たちが見る偏見の目線。それをどう変えていくか。売りにいく話と2人の母(逃げる/追う)の話

Q, スジンが雨の中で涙と共に流す歌。『マグノリア』で流れていた、もう戻れないなどの歌詞とも関連?
あの曲好きなんだよね。かけたかったんだよね。そこから回復していく話にしたかった。始末書のようにペドゥナに二人見た映画等裏脚本設定的なものを渡している

Q, 『弁護人』の時ソンガンホと撮りたいと言っていたが撮影してどうだった?
あの頃(2015~2016)プロット描き始めた。彼とペドゥナ、カンドンウォン前提で。ソンガンホはエンターティナーで皆を楽しくする人だった。場が明るくなる。演技が始まるとテイクが重なると全部違うように演じる。「もう一回やらせて」「今の良かった」「こうもできるけど」などと補ったりアドバイスもくれて助かった

Q, 日本のプロモでも俳優を…なんとか…
GAGAに聞いて…キャストは行きたいと言ってたよ

Q, 日本と外国、指導の違いは?
指導というかコミュニケーションとって答えを見つけるのは国ではなく役者によって違う

Q, 日本でまた撮る?
撮るよ!

Q, 施設の人間は父親になりたいから笛を吹くが実際の父親は笛を吹かない。『万引き家族』の品のない話とかも実際の父親はしない。父親になりたい人とのずれについてどう思う?
『万引き家族』のは実体験。博打好きの父と一緒に宝くじを買って母が激怒した。親父は俺を喜ばそうとしてたのに言っちゃって反省。笛を吹く人は施設の3代目。初代じゃない。先生と父権を勘違いしてる人いるじゃん?大嫌いなんだけど。何か間違った人がたくさんいる。意識的に振る舞おうとしてくる人がたくさん
ひば

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