蛇らい

ベイビー・ブローカーの蛇らいのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
3.4
近年の韓国映画の顔と言える面々のキャスティングでありながら、演出やメソッドが対極に当たる、いわゆる日本映画的な奥ゆかしさが新鮮だった。劇中での時間の使い方には、充分すぎるほどの余白があり、意味付けに固執しない自由さが魅力だ。ロードムービー的な側面がそれらの要素とも相性がとても良い。

たとえ歪な形であっても、水や暗闇は等しく登場人物を包みこむ。観覧車のシーンは特に素晴らしい。観覧車という閉鎖的でありながら、進む方向が円環の中でゆったりとした時間感覚のシチュエーションで、ドンスが対話するソヨンは彼に取ってのかつての母親であり、ソヨンにとっては未来の息子であるという構図に感涙した。

ただ、そういった素晴らしいシーンに必然性が軽薄なのは弱点だと感じる。洗車のシーンは確かに重要で素晴らしいシーンだが、あの古びた廃車寸前のバンをわざわざ洗車機にかける不自然さや、唐突に部屋の電気を消すなど、カタルシスにたどり着くまでの周到な準備運動が疎かになっていた。

子役はもはや脚本の便宜上、必要なキャスティングであることに留まらず、一役者として機能するように手がける是枝演出の妙だ。車に乗り込んで旅を共にするようになってからは推進力は少年の彼に託されているようにすら感じる。

日本映画の新たな挑戦である本作。是枝監督の後に続く世代に、風穴を開けるような姿勢が今作は特に感じられたのも良かった。イシューが前傾化しすぎず、これまでの是枝作品で最も映画的でもある。
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