鮭茶漬さん

カムバック・トゥ・ハリウッド!!の鮭茶漬さんのレビュー・感想・評価

3.0
オスカー受賞俳優という枠だけに留まらず、その数々の功績で間違いなく映画史に名を残すであろう名優三人が、『アイリッシュマン』のような重厚なドラマではなく、こういったお気楽コメディで揃い踏みしたことが何よりも嬉しい。名優の無駄遣いとも言える贅沢が、凡作とも言えるベタな喜劇に箔を付けている。
B級映画プロデューサーをロバート・デ・ニーロが演じる。デ・ニーロと言えば、かつて2010年の『トラブル・イン・ハリウッド』でも敏腕映画プロデューサーを演じたが、同じ役所ながら、老いも手伝ってか、本作ではどこか弱々しく怠惰である。モーガン・フリーマン演じるマフィアから借金をして映画制作に励むも大コケ。そこで、俳優に多額の保険金をかけて事故死に見せかけ、その保険金で借金返済に当てようとする悪巧みをするが、その俳優が、なかなかしぶとい。演じるのは、トミー・リー・ジョーンズだ。

予定調和なギャグ満載だが、そのお決まりに安心感がある。言ってみればドリフだが、志村けんや加藤茶のコントを気難しい理屈を捏ねくり回して観る方が頭イカれてるのと同じように、この映画も素直に楽しめば良い。
ただ、どうやってトミー・リーを始末するかという不謹慎極まりない台詞にも、『黒い罠』『サイコ』『サンセット大通り』などのオマージュが込められていたり、なかなか計画実行できないデ・ニーロに業を煮やしたフリーマンが、『俺たちに明日はない』のように蜂の巣にしてやろうか!など、物騒な台詞に映画愛を感じさせるのは実に皮肉であった。

しかし、本作は、映画制作愛に溢れている気がして、実に心地良いものだった。如何に映画が完成することが奇跡的なことなのか、自分も大学時分、映画学科に属していた頃、映画作りの壁に、悩み、ぶつかっていた。シナリオ通りに進めば苦労はない。しかし、映画はそう単純には完成し得ない。

まず、予算の問題がある。莫大なお金が必要だ。これは、今まさにハリウッドが抱える問題でもある。MCUの成功により、フランチャイズ映画にだけ映画会社は予算を出すようになり、その副作用として、濃密な人間ドラマや奇抜なアイディアのような実験的作品が作れない環境となった。Netflixの台頭は、まさにそのシステムから、こぼれた映画の受け皿になったことで生じた。資金調達に苦心しなくとも、ユーザー課金で賄える新たなシステムは、同時に映画をスマホで見るという映画鑑賞の醍醐味という機会損失でもあり、賛否両論は起きている。

そんなご時世に、80歳前後の名優を起用して西部劇を撮影する70年代が舞台のアナログな映画を完成させる心意気が何よりも憎い。決して懐古主義の称賛ではない、実際に、劇中の映画の監督には女性が起用されているし、トミー・リーが劇中の映画で演じたカウボーイは先住民を祖先に持つなど差別問題もクリアにしている。結果、できあがった作品が、オスカー受賞有力作とはご都合主義で大袈裟だと思いきや、SDGsをも意識しているのは現代的で、目の付け所は悪くないと感じた。

にしても、近年ますます出演作が留まることを知らないデ・ニーロの意欲的・積極的な姿勢は何とも素晴らしい。

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