ヨーク

ザ・スイッチのヨークのレビュー・感想・評価

ザ・スイッチ(2020年製作の映画)
3.7
本作を観た後で監督の名前を検索してみたら『ハッピー・デス・デイ』の監督でめちゃくちゃ腑に落ちたというのが映画の内容以上に心に残っている『ザ・スイッチ』でした。
『ハッピー・デス・デイ』もそうだったんだけどもう色々と詰め込まれてる映画ですね。なんかもう色々やり過ぎて何がしたいんだお前は! ってなるけどまぁそれはそれで楽しいし面白いしそこそこいいお話にまとまっているという、器用でよくできた映画なのであります。ちなみに『ハッピー・デス・デイ』の続編は見ていない。
あらすじとしてはアステカ文明の遺物でありいかにもいわくありげだが特にこれといった説明のない呪いのナイフが殺人鬼の手に渡り、主人公の女子高生ミリーがそのナイフで肩を一突きされ危うく刺し殺されそうになるがすんでのところで助かるんだけど、その日の深夜(というか睡眠後?)にミリーと殺人鬼の魂が入れ替わってしまうというもの。ミリーも殺人鬼も事の次第に大いに動揺するのだがやがて殺人鬼は女子高生の身体で油断させて殺しを楽しむようになり、ミリーは自分の身体を取り戻すべく自分の身体の殺人鬼を追う、という感じになります。
まぁ古来よりある入れ替わりもののお話ですよね。日本でなら『とりかへばや』が最古なのだろうか。個人的には『おれがあいつであいつがおれで』が最初の入れ替わりもののお話だったけど、本作では単に男女が入れ替わるというだけでなく入れ替わる相手が殺人鬼だというのが面白ポイントなわけですね。それによって視点の変更が行われ、見た目は女子高生なのに凶悪な殺人を行う中身殺人鬼という存在と、見た目は熊のようなおっさんなのに中身が乙女な女子高生という存在が描かれるわけだ。ちなみに『ハッピー・デス・デイ』では主役の女子大生は何度死んでも全然心が痛まないようなクソビッチに設定されていたが本作の主役の子は凄くいい子というか普通の10代の子で好きな映画が『ピッチ・パーフェクト』だというのだから笑ってしまう。
まぁそこは殺人鬼とのギャップを付けるためだからそういういわゆるいい子になったのだろうけどそこ面白かったですね。熊のようなおっさんの身体になっても当然生理現象はあるからトイレに行っておしっこもするわけだが「なにこれ楽しい!」って言いながらチンチン振り振りして遊んだりする。またミリーは基本的に大人しい子でいじめというほどではないにしても根暗な奴としてイジられたりしていたのだが殺人鬼の身体になってからはかつて自分をバカにしていた男子がビビリまくるし片手で締めあげたりもするわけだ。そういう肉体が変わることによる視点の差異は面白かったですね。もちろん殺人鬼側にもそれはあって、最初は女子高生の肉体が非力で殺しが上手くいかなかったりもするんだけど自分が女の身体なのだと自覚してくると、殺人鬼の肉体のミリーが迫ってくると悲鳴を上げて周囲の人に守ってもらったりするような見た目が少女であることを武器にしたりするのだ。
そういう風に自分の立場が変わると見える世界も変わってくるというのは『ハッピー・デス・デイ』でもそうだった。クソビッチな女子大生が何度も同じ一日をループするうちに今まで邪険にしてた相手に優しくすると違う世界が現れてくるような、そういう自分のありようで世界も変わってくるというテーマは本作でも健在で、最初に本作の監督が『ハッピー・デス・デイ』と同じでしっくりきたというのもそこですね。
ただまぁ、そいういう感じのテーマが継続していっているというのはいいことなんだが『ハッピー・デス・デイ』と同じということはつまりホラーやスラッシャー的な要素は他の異なる要素、ループものだったり入れ替わりものだったりというものと組み合わせて味を出すというのが主目的であってホラーやスラッシャーという要素自体は必ずしも重要視されていないという点もある。そこは本作をジャンル映画としてのホラーものを期待して観に来た客にとっては肩透かしもいいところだろう。そこそこは人数も死ぬのだが如何せん殺し方やゴア表現的にもいまいちだなぁと思ってしまうところはあった。まぁそこは主題じゃないんだろうな。『ハッピー・デス・デイ』でもホラー的な怖さはほぼなかったもんな。あと殺されるキャラクターも一般的な道徳観からいえば殺されてもあんまり心が痛まないようなキャラクターばかり(ミリーの中身が殺人鬼だと知らずに強姦しようとする奴らとか)だし基本的に大多数の人が共感できるような良心的な映画になってるんですよ。ポリコレ的な観点でも文句はないし、マーケティングとしては大正解なんだろうけどホラーものとしては物足りない部分もありますね。個人的には当然のようにおっさん殺人鬼側の視点で観てしまうわけだが最終的にはスッキリ浄化される感もまぁ道徳的なエンタメであるという証左であろう。まぁ女子高生にやっつけられたら浄化するしかないよね。プリキュアにやっつけられるようなもんだよ(何がだ)。
ま、結局は『ハッピー・デス・デイ』がそうであったようにホラー映画のガワを被った変化球としての青春ものなんですよね。それはそれで面白かったし監督は間違いなく達者な映画巧者なのだけれど次はもっと違うのを観たいなぁと思いますね。
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