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シングルマンのcyphのレビュー・感想・評価

シングルマン(2009年製作の映画)
4.9
愛は確かに存在するのに時間は不可逆で、記憶だけを頼りに呼吸を続けることはこんなにもつらい。亡くなった若い恋人ジムの溌剌とした愛らしさ、ジョージの気高い美しさ、ふたりの調和ある蜜月の日々、これらがぜんぶ苦しいくらい映画的になってしまうのもすべては時間が不可逆なせい。色彩の失われた現実と鮮やかな追憶が切り替わる度胸が張り裂けそうになるけど、一方現実の中でちいさな物語は生成されることをやめず、それでも彼の緩やかな自殺を止めることはできない。死の淵にキスを落としにくる存在を本物の愛と呼ばずに一体なんと呼ぶのか。記憶の鮮明さがジョージの精神的(という字幕がついていたような気がする)な様子を表していてやはり涙が出る。神経質なまでに完璧な美しさを保つ画面とハクスリーは確かによく合うように思った。『神は細部に宿る』を体現した映画。何度でも観たい。