紅孔雀

シングルマンの紅孔雀のレビュー・感想・評価

シングルマン(2009年製作の映画)
4.7
我が敬愛するレビューワーさんたちの殆どが、肯定するにせよ否定するにせよ、取り上げていることからも、本作の凄味(!)が分かります。性的マイノリティを取り扱っているため、そこに違和感を感じるのも自然なのですが、だからと言って、この作品の持つ思想、美意識は、そうした差別感を超えるだけの深みを持っていると思いました。以下、少し長くなりますが、その魅力を箇条書きに。
①トム・フォード監督の審美眼: 例えば、コリン・ファースが住む邸宅は、フランク・ロイド・ライトの弟子ジョン・ロートナーの建築物という拘(こだわ)りぶり。そしてフォード監督の、グッチを破産から救った“経営感覚”とアイシャドウがシャネルより高いという“ブランド価値”が全編に横溢しています(グッチのエピソードは「Kさん」の、シャネルの話題は「shihoさん」の、各々受け売りで〜す)。
②俳優陣の魅力:コリン・ファースの知的な色っぽさは言わずもがな、それに一歩も引かぬジュリアン・ムーアの仇(あだ)っぽさ、そしてニコラス・ホルトの透明感も見事でした。ゲイの映画なのに嫌味な人物が出て来ないのも、後味がいい理由だと思います。
③名言が頻出:ファースが「過去に生きず未来を考えろ」と言えば、ムーアが「女は過去に生きるのが未来よ」と応じます。
ホルトを前にしてのファースの言葉も深い。「死が未来だ」そして「人生が価値を得るのは他者と真の関係を築けた時だけだ」
④音楽も厳選:特に、最後のタイトルバックに流れる音楽が素晴らしいと思ったら、ヒッチ・コック「めまい」のテーマでした。曲名「Scene D’Amour 」。作曲者は ヒッチ映画の常連バーナード・ハーマン。この他「ブルームーン」なども実にいいタイミングで流れます。
次作『ノクターナル・アニマルズ』も世評高く、こんな才能も世の中にいるんだなぁ、と感嘆しきりであります。
PS:なお原作者クリストファー・イシャーウッド(1904-1986)は、中野好夫、吉田健一など錚々たる翻訳者により数編が訳出されているイギリス生まれのゲイ男性の文筆家。有名なイギリスの詩人W.H.オーデンの友達らしいです。
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