平野レミゼラブル

ポプランの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

ポプラン(2022年製作の映画)
3.8
【時速200kmのおちんちんが我々を初心へと導く】
『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督と『メランコリック』のプロデュース兼主演の皆川暢二。口コミで話題になり、ヒットを飛ばしたインディーズ映画の期待の両星が遂に監督・主演のゴールデンタッグを組んで殴り込みです。もちろん僕も両作ともに大好きな作品でして、この個性溢れて魅力的な2人が一緒に創り出す作品というものに期待が溢れておりました。
そして上田監督10年にも及ぶ構想の末に完成させた映画の全貌というのが「家出したイチモツを捕まえろ」という個性が溢れすぎて狂気にまで達してしまったモノ。えーと、上田監督…なんでそれを10年も温め続けたんですか!?

タイトルの『ポプラン』ってのはその家出してしまったおちんちんの名称で、何故だか知らないけど時速200kmで空を飛び回り、6日間で栄養失調によって死に至ってしまうとのことなので元の持ち主はその間に捕獲して取り戻さないといけません。他に玉の部分はアポタイラー、死の間際に何故だか発光する現象をセプタイトだか言うらしいですが、まあここら辺はどうでもいいですね。観た僕ですら名称があやふやです。
要は時速200kmで空を翔ぶおちんちんを専用の網(お値段10万円、中古8万円)で捕獲するために奮闘するのが映画の全てでして、心底きったねー『暗殺教室』みたいなモンですね。まあ、マッハ20の殺せんせーよりも大分有情な速度ではありますが、何故か離れていても痛覚はリンクしているため、時速200kmで急所があちこちにぶつかるサマが痛々しすぎてある意味『暗殺教室』よりハードモードではありますが……

もう、ネタのほとんどは「ある日おちんちんが突然消えたら?」と「もしもおちんちんが時速200kmで翔んでいたら?」というくっだらねーワンアイデアを擦り続けるものなんですが、まあこちとら脳ミソ小学生なんで想像するだけで面白いモノを大真面目に映像にされたらゲラゲラ笑っちゃいますよ!
時速200kmおちんちん以前に、竿のない状態でのおしっこ事情の時点で面白く、小便器に座ったり、ストローを挿してみたりで悪戦苦闘する主人公の姿が最高。『メランコリック』と違って皆川さんは今回自信満々なベンチャー企業社長役なんですが、そんな彼が大切なモノを無くして内股気味に歩き、しょっちゅう半ケツ・全裸になっては股間を抑えて七転八倒するサマが迫真でシンプルに笑わせてきます。

世間的にはその時速200kmおちんちんはUMAのスカイフィッシュと認知されているため「ポプランの会」という地下組織しかその全貌を知らないというのがミソ。それなりの地位にある主人公が「おちんちんが時速200kmで翔んでいってなくなった!」なんておおっぴらに言えるワケないし、他人に確認させようなんてしたら、それはもうただの露出狂なんですよ。だからこそおちんちんがなくなった被害者は、人知れず活動する地下組織しか頼れないし情報収集もできないってのも割と考えられています。
まあ、それにしたって病院は「とりあえず様子見で」とかノンキなことほざいてんじゃねーッ!って感じですが……

本題の時速200kmで翔んだり光ったりするおちんちんについても「映画という媒体でいかにおちんちんを出すか?」という課題を見事にクリアしているのが巧い。あまりに動きが早すぎたり、滅茶苦茶光り輝いていたりでブツそのものが直接映らないんですよ。そのため、おちんちんが終始翔び回っているにも関わらず画面がドギツくならず、常に清潔感(清潔感!?)が保たれています。
作中人物が運営している漫画アプリ内のオリジナル作品につけていた注文「大人から子供まで楽しめる際どくない作品にしてほしい」というのは『ポプラン』自体にも適用され、老若男女に親しまれる国民的おちんちん映画へと見事に仕立てています。
因みに僕が一番笑ったおちんちんネタは「時速200kmフェラ」の一連の流れです。顎が死ぬ!!

まあなんでおちんちんが突然翔んでいったのかってのは、作中じゃ明確な説明はないものの、主人公をはじめ「成功のために大切な家族や仲間に初心まで捨てて顧みなかった男」という共通項があることが示唆されているため、ある種の罰や戒めの類と解釈できます。
実際、おちんちんが翔んでいった時に持ち主が見る夢ってのは、かつて捨てたモノの残滓であり、おちんちんもどうやらそこに向かって翔んでいっているらしい。そのため男のおちんちんを追う旅というのは、そのまま初心を取り戻すための旅へとリンクして、そこがドラマになるワケですね。
上田監督も舞台挨拶で『カメ止め!』での大成功を経て、変わりまくった環境や、周囲から寄せられる期待によって自分を見失っていく不安を語っておりましたが、その辺りも10年間温め続けてきた脚本の中に反映させていったんでしょうね。

男にとって「息子」とも呼称されるおちんちんは大事なものであり、初心を忘れてしまうことは大事なものを失うことのメタファーとも取れます。
そのため今まで自分が捨てて失ったものを改めて見つめ直し、その捨てたものを再び拾ったり、あるいは二度と元に戻らない重さを噛み締めることで主人公もちょっとずつ変わっていった自分を見つめ直していく。
おちんちんを捕まえる旅はいつの間にか、自分の原点を見つける旅へと変化しており、そういう意味では本作、題材に反して存外真面目な作品なのかもしれません。

ただ、舞台挨拶に立った原日出子さんは、ヒット作以降今もなお悩んでいるという上田監督や皆川さんに「こういう時は一度何もかも捨てることも大事」と語っていました。それはつまり…おちんちんを一度捨ててみろと……?
確かに作中ではおちんちんが二度と戻らなかった人物も登場しており、彼は泣かず飛ばずだった夢に未練たっぷりながらも決別する姿も描かれており、このように時に思い切っておちんちんがない生活を受け入れる覚悟を決めてみるのも一つの道なのかもしれません。
上田監督もおちんちんに込めた意味は、各々がいかようにも解釈できるような余白を持たせたことも語られていましたし『ポプラン』におけるおちんちん、そしてそれを巡る旅の持つ意味を色々と考えてみるのも楽しいかもしれません。
正におちんちんの多様性社会ってヤツですね。ナニ言ってんですかね。

おちんちん多様性社会重視も相俟って、旅の過程は言葉や説明は少なめながらも、折々でアイテムや布石を丁寧に映していくため、スムーズかつわかりやすい展開なのも嬉しいところ。ただでさえ時速200kmのおちんちんという滅茶苦茶なブツが画面を闊歩しているため、その部分を無駄に茶化すでなくシンプルかつ静謐(静謐!?)な演出で際立たせているのが色々と丁度良いバランス感覚。
ただ、伝えてくる教訓や旅の中で達成される主人公の裏の目標などはありきたりの範疇ではあるので、そこにもう一つおちんちんに絡めた展開があればなお良かった気はしますね。いくらどのようにでも解釈できるメタファーを仕込んだとはいえ、翔んでいくのがおちんちんである必然性がもうちょいナニかないと、主人公の旅がよくある自分探しにまで堕してしまいます。

とはいえ、時速200kmのおちんちんという取っつきづらいド下ネタを、誰でも取っつきやすい清廉さ(清廉さ!?)にまで仕立てた安心感は、この物語の基礎の部分が丁寧であるが故でもあります。時速200kmの豪速変化球を、意外にまともなストーリーラインから放ってくる取り合わせのトンチキさがシュールで面白くもありますしね。
『メランコリック』とは正反対の役でも軽々器用に、そしておちんちんがなくなったワケのわからない状況をもしっかり面白くこなす皆川暢二さんの力量。『カメ止め!』以来呪縛にすらなってた「どんでん返し作家」から完全に脱却し、時速200kmのおちんちんという狂ったワンアイデアを『100ワニ』のような基礎に忠実で静かな演出で仕立てた上田慎一郎監督の力量。
双方ともに前作から発展した新しい顔を見せてくれたため、見事に一皮剥けたと言えるでしょう。おちんちんだけにね!!(最低)

オススメ!

本作最大の弱点は作品の性質上「おちんちん」もしくはそれに近しい表現を連呼しないといけないことではあるんですが、僕は普段から「おちんちん」としか呟いてないし、何だったら1ページ毎に必ず1回以上「おちんちん」の単語が出てくる同人誌も創ったことがあるので生憎とノーダメージだぜ!!
さて、ここでなぞなぞです。エッチになればなるほどに硬くなっていく男性器はなんでしょうか?そして僕はこの感想の中で何回「おちんちん」と書いたでしょうか?