MasaichiYaguchi

ポプランのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ポプラン(2022年製作の映画)
3.8
「メランコリック」の皆川暢二さんと上田慎一郎監督がタッグを組んだオリジナル作品は、主人公が或る朝目覚めたら身体の一部が無くなっていて、それを探し求める中で、過去にかなぐり捨てた人々と再会し、自分自身を見詰め直していく心の旅を笑いを交えて描いていく。
フランツ・カフカの中編小説「変身」では、或る朝、主人公が巨大な虫になるという不条理劇がダークトーンで繰り広げられるが、本作の主人公、漫画配信で成功を収めた経営者の田上達也は虫にはならないものの、男として大切なものが消滅するという不条理に見舞われる。
ただ「変身」とは違って本作は悲喜劇と呼べるもので、一歩間違えると、お下劣な下ネタ話に成り兼ねない危うさがある。
上田監督は、その危うさを主人公が自らを顧みるドラマのエモーショナルな部分と絶妙なバランスで配合して描いていて、泣き笑いしてしまう。
少年漫画や虫取りがモチーフになっているドラマを観ていて気付いたが、本作には上田監督の若かりし頃のノスタルジーが込められているような気がする。
この作品は下ネタ交じりの不条理劇ではあるが、描かれた芯の部分には誰にでもある、置き去りにした過去や人に対する思い、その思いを通しての内省があり、それが心に沁みてきます。