ネノメタル

ポプランのネノメタルのネタバレレビュー・内容・結末

ポプラン(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「ゲラゲラとハラハラとヒリヒリ」の共存する上田慎一郎の「文学」である

1.overview
「ある朝突如逃げてしまった男性器(通称:ポプラン)を探す旅に出る」という絶対あり得ねえエクストリームな設定に大爆笑すると同時に「自分とは一体何者なのだろうか?」というある種の哲学的な命題に対峙しなければならぬこの主人公、田上の置かれているリアリティにふっと我に返ったりと、正にとコミカルとシリアスの塩梅がこれでもかと表裏一体ピッタリと対峙しているのが珍しいくらいの本当に味わい深い傑作だとも思った。
更に、「リアリティ」という側面で言えば、主人公が少年時代に描いていた漫画の先天的に下手なのに自分では上手なつもりである事を志向したあの絵柄など、絶対少年時代に自分や友人が描いていたそれと限りなく符号するし、主人公が実家に帰ってきた感じのあのリアルさにももうビックリしてしまい。例えば、家に帰って父親がノソッと出てくる感じとかもう北九州のうちの実家かよ(笑)!!!てくらいもう既視感がハンパないのだ。
あと、特筆すべきは娘役の子役の演技ね。
主人公が再婚した前妻のいる民宿に訪ねた時の、多分その前妻との間にできた子供(長女)が実の父親である筈の田上さんを見て「(あの人)誰?」ていうんだけど、あの微妙に既視感ありげでかつ無邪気なのか分からんげなあの表情がまあお見事すぎるのだ。
もう予告編であのシーン観たただけで号泣してしまう。
そういや上田慎一郎監督で号泣するぐらい泣ける要素あるのも珍しいな、だって彼の作品は良い意味でセンチメンタルを引きずらずサッパリとした気分で劇場を後にできるのが特徴だったから、そこは新基軸を見た思い。

言わば、これほどまでに「ゲラゲラとハラハラとヒリヒリ」が絶妙なバランスで共存している映画も珍しい。

或いはこういう言い方もできよう。
【本当の自分とは何か真正面から向き合う】
なる命題を説教くさいニュアンスではなくキチッと楽しめせるというエンタメとして昇華させるには
【失ったポプランを探す旅に出る】
というエクストリームな状況を設定しなければ成立しないのだ、と言う上田監督のギリギリかつぶっ飛んだセンスと発想力に圧倒される。

もうハッキリ言おう。
この『ポプラン』既に2022年ベスト1級の傑作であるばかりでなく上田慎一郎監督作品でも最高傑作ではなかろうかとすら思える。いや彼は『カメラを止めるな!』然り『スペシャルアクターズ』然りこれまでも「傑作」しか残していないのだけれども。

2.『ポプラン』は上田映画の核である
さて、突如舞台を1月11日に大阪のLOFT plus oneにて開催された公開記念イベント「上田慎一郎監督と皆川暢二 のスペシャルトーク」に移そうか。
この時公開前だったので作品を紹介しつつそのネタバレをひた隠すスリリングさが滲み出るトークに爆笑したものだが、彼が「自由とは制限があってこそ今日中できるもの」と言った時物凄くハッとしたと同時にこれが上田監督のバランス感覚なんだよなとつくづく思った。ディズニーやマーベル、DCなどとあい通じるエンタメのど真ん中中にいるようでふと垣間見えるナイーブな程に知的な側面。
正に前述したコミカルとシリアスのバランスがそこにあったのだ。

或いはこう言う言及もあった。
因みに先週のloft plus oneでのトークショーで「シリーズもの・原作ものではないオリジナルを世にドロップアウトする事の難しさ」について上田・皆川両氏共々触れていたし、現にそう言うセリフも本編でもあった。そして彼は以下のようにも言った。
「この話は過去の作品である『カメラを止めるな!』然り『スペシャルアクターズ』など群像劇が多かったが今回はそれらとは一線を画している。これは【私小説】として位置付けられるかもしれない。」とまで言った。
『ポプラン』はそんな彼の本質・核(コア)を体現した作品なのだろうと確信したものだ。
とはいえ個人的には『カメ止め』と『スペアク』とでは正反対ってくらい異なる作品であると思ったりもするのだ。
では、ポプランは『カメ止め』要素が濃い目なのか或いは『スペアク』の要素か?
答えを一言で言うと『スペシャルアクターズ』である。
次にそんな異色作でもある『ポプラン』を過去の作品『スペシャルアクターズ』と比較したい。

3.『ポプラン』と『スペアク』の類似性
本作は『カメ止め』より『スペアク』の方が好きな人にハマると思う、ソースは私(笑)、と言う主観はさておいてもあの作品も『カメラを止めるな!』と同様に後半というか物語全般の構造におけるギミックが取り沙汰されるように思うが実は根底を成すのは「自分のアイデンティティとは何か?」という命題である。少し振り返ればあの話で主人公の数人は父親から昔から再三言われ続けてきた「お前には役者などできる訳もない!!」と言うダメ出しが事ある毎に頭の中をフラッシュバックし、そのせいでいつも卒倒してしまう。だからこそラストシーンで自己に向き合い、弟の「いけ、ヒーロー!」という言葉と共にトラウマを克服するのである。そう、『ポプラン』にどこかスペアク要素を感じるのは両作品ともどもはコメディの体裁をなしていても大野数人による自己アイデンティティを模索する話が根底にあるからだと思う。
更にスペアク出演勢だった清瀬やえこ、茨城ヲデル、山下一世などが物語のキーとなる場面で遠からずな役柄で配役されているのも必然である。

4.雑感️....というか吠えてますw
鑑賞から1週間経過したが、上田慎一郎監督『ポプラン』笑いというよりヒリヒリ面でジワってる。正直ここまでの傑作とは思わんかった。翌日になってまだ感動の余韻が続いてるのは下手したらそだれこそ『スペシャルアクターズ』以来かも。
あと、本作を観たからこそ強く思うんだけど「これそんなに下品じゃないんで...」とか「ふざけてるようで真面目なんですよ」みたいな及び腰の感想見るたびに憤りすら感じる。
これこそ真っ向勝負のエンターテイメントど真ん中やんけ!!!!!!
もうこれは映画だ、音楽だ、演劇だ、ジャンル問わず全エンタメを愛する者が刮目すべき傑作だと思う。
不思議な事に『カメ止め』然り『スペアク』然り、上田慎一郎監督はこれだけ顔が知れて、出演者に劣らぬくらいキャラクターも濃すぎるのに、いざ映画本編に向き合うと彼のパーソナリティがスッと頭の中から消えるのよな。
そんなカリスマ性を持ちつつも作品のメッセージが個を超えて普遍的に響いてくる監督は、彼以外では岩井俊二監督でしか知らない。これも作品の持つ力だと思うし、この何かと規制の多い世の中で何よりも表現したい事、伝えたいメッセージをこうしてオリジナル作品としてドドーン!!!!!とリリースできてるこの上田慎一郎監督の映像作品をリアルタイムで観てこうしてあれこれ言い合えるってのはラッキーな事だと思う。
そういや、『ポプラン』トークショーの時に特別鑑賞券二枚買っているのだ、という事で少なくとも私には2度ゲラゲラとハラハラとヒリヒリ」を味わう権利がある訳で今からもうその瞬間を楽しみにしている。

ちなみに映画『ポプラン』予告編では、0:44-45の所がヤバい。
この僅か1秒のこのシーン見ただけで涙腺崩壊する(´༎ຶོρ༎ຶོ`)
どうヤバいのかネタバレレビューじゃなくて堂々と言えるには「もう観る」に越した事ないので全世界78億5000万人の未見の皆様早く観やがれ下さい。
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