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シカゴ7裁判のLudovicoMedのレビュー・感想・評価

シカゴ7裁判(2020年製作の映画)
3.0
ソーシャルネットワーク脚本家、アーロンソーキン渾身のNetflix映画。

パラマウントからワケありNetflixに売却され、急遽配信で世に放たれた本作は2021年にアカデミー賞が開催されるならば、演技部門を賑わせる存在となるだろう。
Netflixも近年はアカデミー賞に力を入れ『ザファイブブラッズ』デヴィッドフィンチャー『Mank』と本作あたりがNetflix枠を制覇しそう。
特に『Mank』とは因縁深い関係になりそうな作品だが、一際アカデミー賞風格抜群のタイムリーなテーマが際立っています。

前代未聞の大統領選を前に、現在進行形デモ、ブラックライヴズマターな状況をベトナム戦争反対派の市民デモ参加者シカゴセブン&60年代のジョージフロイド氏ことブラックパンサー党のリーダーを政府側がパブリックエネミーに祭り上げようと出来レース裁判をする過去の黒歴史に見事にスライドされている。ただそれと同時に本来"後日譚"として語られるべく"法廷劇"のお話なので、トランプ時代の現状とかベトナム戦禍のアメリカを如実に反映するには、ちと毒が足りず、スパイクリーかぶれな挑戦に失敗してる印象を受けた。

それでも、社会背景なんかの気難しい要素を取っ払って愉快に鑑賞するなら単純に映画として面白かった。いやここまで会話劇のパワーで貫く作劇ながら脚本の秀逸さに脱帽いたしました。

なんせあの『ソーシャルネットワーク』で見せた2倍速会話劇の爽快感を発明したアーロンソーキンがメガホンを取ったのだから、やはり見所はクセの強い会話劇だろう。

ボラットことサシャバロンコーエン演じるアビーホフマンが実は最もインテリぶった政治思想の言葉の攻撃をナンセンスなジョークフィルターで隠し、そう見えなくなるほどの悪ノリで周囲を惑わし続ける。そんなアビーを前に、トムヘイデン(エディレッドメイン)のドン引きな表情を数カット挟み、ナンセンスなボケに判事は「法廷侮辱罪」と真面目なツッコミで返す新手のコント、絶妙なリズムの話術に爆笑でした。

そして「世界が見てる、世界が見てる」の本作最大のパンチラインが表すように、画面の外側には、映画に映らない大衆が固唾を飲んで見守っているという状況下にて話は進んでいる。
つまり、単なる判事&陪審員との駆け引きの向こう側には、如何にして大衆を動かし、共感を勝ち取るかという背景をデモ等の回想場面で随所に織り交ぜ紡ぎ出す。

この観点こそに通常の法廷劇モノや『ソーシャルネットワーク』とは違う味わいがあり、セリフの一言一句に絶妙な話術とクスリと笑わすアーロンソーキンの仕掛けが成されている。

そして、これはあくまで個人的感想だが、アビーとトムの全く異なる正義感で訴える集会シーンや法廷での振る舞いを見てると、『図らずも』トランプvsバイデン構図が脳裏に浮かび、如何に大衆をものにするかと自らのスタイルを貫く様が不思議と既視感を感じてしまいました。
もちろんアビーとトムの目指す地は同じで対決しているわけではないが、極端にアイコン化された2人が『図らずも』リアルタイムに到達しちゃった感が、どこか漂っておりました。

しかしながら、終盤に向かうにつれ、会話劇の面白みは収縮していき、法廷劇の構図がやがて、判事が"パブリックエネミー"状態に流れていくことで、サスペンスが薄れまるでスカッとジャパンみたいなとんち合戦になってしまう。

ここはやはり『デトロイト』のクライマックス法廷劇の様なキリキリする現実を突きつけるパートとして毒気を見せてほしかった。

それでもたかが会話劇、セリフとセリフのキャッチボールをここまでエンタメに昇華してみせたアーロンソーキンの手腕は流石でした。
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