『モリーズ・ゲーム』『ソーシャル・ネットワーク』などで知られるアーロン・ソーキン監督による、ベトナム戦争下の1968年に実際に起きた抗議デモ暴動によって行われた裁判を映画化!
早くも今年のアカデミー賞有力視されている力強い話題作!
【物語】
キング牧師が亡くなった1968年、シカゴで行われた民主党大会会場の近くでベトナム戦争に反対する様々な集団による激しい抗議デモが起きる。
事件当時、暴動を扇動した首謀者とみられる各反戦グループの中心人物たち≒"シカゴ7"は、ジョンソン政権時代に一度は不起訴扱いとなったが、翌1969年次期大統領ニクソン政権に交代直後、起訴されてしまう。
次々とベトナム戦争に若者たちが送られていくなか、彼らの裁判が始まる。
【感想】
いやー物語、キャスト、映画のメッセージ、どれをとっても良かった。
アーロン・ソーキン自身、前回レビューしたばかりの『モリーズ・ゲーム』に次いで監督2作目とのことでこれから監督としても映画作りが上手くなっていくんだろうな、という今後の期待に胸膨らみつつ、本作も大変楽しんだ。
以下①物語②キャスト③作品メッセージについて、それぞれツラツラと。
①エンタメとして抜群に面白い、怒涛の展開&圧倒的情報量
前作モリーズ・ゲーム同様、冒頭から一気に引き込まれる。
しかも今回はシカゴ7+1人のセリフのリレーによってテンポ良くそれぞれのキャラの性格、位置付けがわかる冒頭となっているので、ノッケから前作並みに情報量が多く、食い入るように観た。
その後も、起訴された彼らと、ニクソン大統領によって任命された裁判官との、序盤コントのような会話の攻防から一気にシリアスになる中盤、被告側に肩を持つ陪審員の不当な離任、そして徐々にあきらかにされる起訴内容の事件そのものが描かれていく。
2時間超、見所が多くまったく飽きない。
また、モリーズ・ゲームのときの2時間超はさすがに終盤ちょっと疲れたけど、本作は終盤まで肝心の民主党大会での暴動事件そのものは直接描かれず、基本的に裁判シーンと出頭した関係者らの証言に基づく回想によって物語は進む。
また、それぞれのエピソードがシンプルに盛り上がるので2時間起伏がある。
アーロン・ソーキン監督自身、前作より監督として手応えを感じたとインタビューで語ってたのだから間違いない笑
②全キャスト魅力的
裁判で共謀罪にかけられたシカゴ7とブラックパンサー党リーダー、彼ら側に立つ弁護士、対峙する立場の検察官、そして有罪ありきで裁判を押し進める裁判官。
それらキャラクター全員魅力的。
コメディ色が未だに自分のなかで色濃いサシャ・バロン・コーエンも、序盤こそコメディリリーフ的立場に見えるが、徐々にエディ・レッドメイン演じるトム・ヘイデンと思想の違いに対立を激しくしていき、不器用ながらまっすぐ反戦を訴える姿がかっこよかった。
また、出番わずかながらマイケル・キートンは、このシカゴ7裁判がニクソン政権下による捻りの利いた"政治裁判"であることを握るキーパーソンとして実に美味しい役所で最高にかっこいい。
③持ち合わせている筈の"信念"の曖昧さ
この映画に出てくる登場人物たちはとかく矛盾が多い。
起訴される1人、デヴィッドはキング牧師よろしく非暴力による反戦を訴える人格ながら思わぬ場面で手を出してしまう。
極め付けはトム・ヘイデンが扇動したスピーチの録音。シカゴ7のなかでもとびきりリテラシーを持って冷静に建設的に反戦を訴えていた彼が実は起訴の元となる民主党大会で取り返しのつかないある行動に出ていたことが明らかになる。
このように、人は一見曲げない信念を持って活動していても、矛盾を孕んだ言動、行動を取ってしまう。
それゆえ、彼らの取る行動は受け手によって解釈の揺れが多分にある。
たとえば裁判への反対を示すため裁判官が入廷する際に起立するのをやめようと謀る場面でヘイデンはつい反射的に起立してしまい、他の活動家からは裁判官に気に入られようとしていると非難されてしまう。
この行動を"つい"で許すのか、「お前だけ気に入られようとしている」と責めるのか。
現に、シカゴ7の彼ら自身物語が進むにつれ、それぞれの活動家グループごとの思想の違い≒反戦運動に対するそれぞれの解釈により徐々に対立が激しくなっていく。
ただこの映画が凄いのは、やがて彼らは互いの思想こそ違えど根本的にはある共通した"信念"を持って運動していることに気付いていくというところ。
この映画を作るのに10年以上の歳月を費やした、とアーロン・ソーキン監督はインタビューで語っていたが、ラストに浮かび上がる彼らの共通の信念には、いまの分断されたアメリカ国内の事情と重なるところがあり、胸が熱くなった。
いま現在の世の中でもたとえばエンタメ界では#BLMや#MeTooなど、様々な運動の輪が広がっている。
企業側も環境活動同様、LGBTQに取り組もうとしている。
ただ、それらの活動には個々でかなりのバラつきがあり、過激な活動をする団体もいれば営利目的に転用していると捉えられかねない企業もいる。
メディアという色眼鏡を使って日本人の目に触れることもある。
ただ、大事なのはそういった世の中のムーブメントに対して「じゃあ自分はどう思うんだ?」と当事者意識を向けることではないか。
シカゴ7裁判にかけられた彼らは、ハタから見れば頭のイカれた過激な運動家かもしれない。
しかし、メディアが報じない、彼らの本当の行動原理は何か。
映画によって世界と自分の関係を知る、とても現在性のある体験だった。
よかった!