むらむら

シャドウ・イン・クラウドのむらむらのレビュー・感想・評価

シャドウ・イン・クラウド(2020年製作の映画)
5.0
代理人「クロエさん、新しい仕事です!」
クロエ「ありがとう、どんな内容なの」
代理人「期待の超大作! 主役は第二次世界大戦中の女パイロット」
クロエ「お、良さげだわね」
代理人「クロエさんは、ゼロ戦が飛び交う太平洋戦の真っ只中に紅一点!」
クロエ「紅一点? 戦時中だから、ほかの出演者は、皆さん男性かしら」
代理人「そうですね、戦闘機の乗組員の男性7名」
クロエ「はいはい、7名ね」
代理人「……と、グレムリンです」
クロエ「はいはい……ええっ!?」
代理人「どうかしました?」
クロエ「グレムリン、必要ないのでは……?」
代理人「この作品ホラーって設定なんで」
クロエ「いや、ホラーじゃなくていいんじゃない?」
代理人「ぶっちゃけ、クロエさんを主役にするなら、怪物みたいなの必要らしいんっすよ。やっぱファンが泣き叫ぶクロエさんを観たい、ってことで」
クロエ「……」
代理人「もし嫌なら、映画じゃないですけど、『クロエちゃんと行く! ワクワク温泉バスツアー』のファン感謝祭企画が来てますので、こちら進めちゃいますけど、いいですか?」
クロエ「い、いや、大丈夫。ぜ、全然、ホラーも嫌じゃないのよ。もうちょっと詳しく教えて頂戴」
代理人「はい、クロエさんは、戦闘機の銃座に閉じ込められているって設定です。なので前半40分は、クロエさんの一人芝居」
クロエ「ええっ? 他の7人の男たちはどうしたの?」
代理人「ほとんど出て来ないって書いてありますね。ほら、これが監督の演出ノートです。『男7人の人物紹介は、写真で5秒以内に済ませる。あとはクロエさんの顔のアップと、そこにクロエさんをエロい言葉で言葉責めする男たちの音声が被さる』」
クロエ「……」
代理人「監督曰く、どーせ、クロエさんの映画見に来てる連中は男に興味ないんで、クロエさんの顔芸で40分もたせるそうです。『クロエさんを舐め回すようなカメラワークで、延々映します』って書いてますよ」
クロエ「なにそのアロマ企画のマニア向けAVみたいな設定」
代理人「なんですかそれ?」
クロエ「あ、え、何か言ったかしら」
代理人「ま、とにかく、前半40分は、狭い銃座で大股開いて斜め下のアングルから延々顔が映されるので、よろしくお願いします」
クロエ「あんた超大作って言ってたけど……低予算のB級ホラーじゃないの?」
代理人「そんなことないですよ。ほら、なんとなく『ゼロ・グラビティ』みたいなもんですよ」
クロエ「そ、そうなのかしらね。で、後半はどうなるの?」
代理人「銃座から飛び出したクロエさんは、戦闘機の機内を縦横無尽に駆け巡り、グレムリンと死闘を繰り広げるわ、ゼロ戦をあり得ない正確さで撃ち落とすわ、八面六臂の大活躍です!」
クロエ「ちょっと待って、男性7人はどうしたの?」
代理人「ほぼ空気ですね」
クロエ「……」
代理人「ぶっちゃけ、こんな映画、どーせ『キック・アス』から『クロエたんは俺の嫁』『ハァハァ……クロエたん……』って言いながら常に汗かいてクロエさんの映画を追いかけてる小太りの独身男性しか観に来ないんだから、男性いらないんですよ。男性が映れば映るほど、ロッテントマトの点数が下がりますよ」
クロエ「あんた、ぶっちゃけ過ぎでしょ……」
代理人「嫌なら、バスツアー進めちゃいますけど?」
クロエ「あ、いや、大丈夫。この映画、出たいわ」
代理人「これ予告編でも流れてるからネタバレにならないと思うんですが、クライマックスでは、クロエさんが本当に戦闘機から落ちちゃいます」
クロエ「えーっ、なにそれ。助からないじゃん」
代理人「それが大丈夫なんです。戦闘機からヒューって落ちていくクロエさんの下で、いい具合に爆発が起きて、その爆風で、いい具合に戦闘機に戻ってくるんです」
クロエ「なにそれ!? 私、ピタゴラスイッチじゃないんだけど!」
代理人「?? なんですかそれ」
クロエ「いい具合って適当すぎでしょ。だいたい、『予告編』って何よそれ。まだ撮ってないのに」
代理人「そんなこと言いましたっけ? まぁ、エルデンリングでも落下死は一番ムカつくとこなんで、落下死するかと思ったら戻ってきて死なない……っていう、このシーンは、キモオタに混じってる褪せ人からすると拍手喝采なんじゃないでしょうかね」
クロエ「な、なんかよく分からないけどまぁいいわ。ここまで来たら、私も頑張るしかないわね」
代理人「あそうそう。ここでキスシーンが挟まれてるので、よろしくおねがいします」
クロエ「えーっ! ゼロ戦とグレムリンに囲まれてる状況でキスシーンって、さすがにリアリティなさすぎじゃないの?」
代理人「大丈夫っすよ。キスシーンの間は、グレムリンもゼロ戦も待っててくれます」
クロエ「なんたるご都合主義……」
代理人「どーせキモオタニートのクロエファンなんて、映画自体はどーでもいいんだから気にしないっすよ。ついでに、『キスシーンだけは実際は男性との間にサランラップかけてました』とかあとでコメントしとけば、クロエたん処女厨は、いとも簡単に騙されますし。一応、一般層にもアピールするし、一石二鳥っすね」
クロエ「あんた、相当、私のファン舐めすぎじゃない……?」
代理人「だったらバスツアーにしますけど?」
クロエ「はいはいはいはい。わかりました。従います。ってかあんた、ホントは、はとバスの回し者じゃないの」
代理人「(無視して)そんでラストは、飛行機から辛くも脱出したクロエさん」
クロエ「お、最後はハッピーエンドなのね」
代理人「……と、しつこく襲ってくるグレムリンとの、素手でのタイマン勝負です」
クロエ「ロック様かよ!!」

むらむら感想:ホラーって書いてあったのにホラー要素皆無。
むしろ、俺の座席の周辺で、寂しい独身男性が暗闇の中、クロエたんの一挙一投足に俺と同時に「ぐふふ……」と笑ってるほうがホラーでした。

(おしまい)
むらむら

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