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わたしの人生(みち) 我が命のタンゴのtakのレビュー・感想・評価

2.7
元ニュースキャスターの経歴を持つ百合子(秋吉久美子)は、子育てを終え念願だった大学教授の仕事も順調にこなしていた。ところが父親(橋爪功)が認知症と診断される。感情の抑制が利かなくなってきた父親が繰り返す暴言、痴漢行為、万引き。海外でタンゴダンサーとして活躍していた妹実加子、娘、夫とともに、だんだん難しくなる父との対応に追われる日々。デイサービス施設でに通うことになった父親。一方で老人ホーム入りを勧める百合子と頑なな父親との溝は深まるばかり。実加子が施設でタンゴを教えるようになってから、人間関係が次第に動き始める。

和田秀樹監督は精神科医。介護離職、要介護認定など家族が直面する様々な問題が、エピソードとして挿入される。個性ある施設にいる患者たちの、ときに生き生きと、ときにどんよりとしたした様子はそうした患者の現実を見てきているからだ。映画の中で語られる介護離職者50万人以上という現実や介護認定の手続き。多少説明臭い台詞ではあるけれど、この映画で知ることはきっと多いはずだ。また、タンゴセラピーは実際に現場で用いられ、単なる音楽療法とは違って評価されているものだそうだ。

医師とのやりとりの最中に暴れ出したり、欲望を抑えられず女性に手を出す場面には痛々しさもあり、娯楽映画として楽しめるものではないかもしれない。しかし、厳しい現実ばかりでもなく、父親の娘への思いが伝わるクライマックスや、家族それぞれが新たな方向へ歩み始めるラスト。それは青空のように爽やかだ。患者の一人を演ずる松原智恵子のかわいいおばあちゃん、いかにも人の良さそうな医師を演ずる小倉久寛、頼りなさそうな夫が斉木しげるなどキャスティングも上手い。個人的には「特捜戦隊デカレンジャー」の木下あゆ美ちゃんがちょっと嬉しい。

以前に、同じ認知症を扱った「老親」(2000)という映画を観た。こちらは、厳しい現実は「わたしの人生」よりもさらに厳しく描かれている。しかし”人間はいくつになっても成長できる”というメッセージが地味だけど心に強く残る映画でもある。機会があればこちらも是非見比べて欲しい。
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