しゅんまつもと

サマーフィルムにのってのしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
4.3
おおまかには下に書いたことと同じ。
例えばファスト映画とか、一向に戻らない自粛ムードとか、よりこの映画のテーマを浮き彫りにするような世界に良くも悪くも近づいている現実。でも、だからこそ、未来をあきらめない。映画を諦めない。という想いがより強くなる。この映画のラストにはそういう希望がある。ラストシーンは、未来は何度だって書き直せる。
あとはやっぱりビート板が自分は大好きで、彼女の視線だけでもこの映画が語れるということが改めて見てわかった。


【2020年11月2日/東京国際映画祭先行上映】
レビューと称してあらすじを語るのってなんじゃそれって感じで苦手なんだけど、まぁ来年公開だし忘れた頃にみんな見てよ!って意味で禁を破ります。
という書き出しで思ったことを書き始めたらとてつもなく長くなったので誰も見なくていいです。

時代劇が大好きでキラキラ胸キュン恋愛映画が受け入れられない映画部のハダシは友達のビート板、ブルーハワイと3人で放課後に時代劇映画を観るのが唯一の楽しみ。ハダシは武士が自分たちと同じように青春時代を生きる「武士の青春」という脚本を書いてはいるが、未だに自分で映画は撮れていない。
ある日、ハダシは未来からやってきた凛太郎と出会う。「この人を主役にして映画を撮りたい」そう思った彼女は仲間を集めて夏休みに映画を撮って文化祭で上映することにする。
しかし、凛太郎が未来からやって来たのには理由があった。それは未来で巨匠になったハダシの初監督作を見るためで、さらに未来の世界にはもう「映画」はなくなっているという。



プロットの時点でもう愛せてしまう。どんなに映画として欠点があろうが自分はこういう映画が好きなんだよなぁと改めて思った。ので始まってすぐに毎秒涙ぐんでた。
今作は瑞々しい青春映画でありながら、次第にもっと普遍的で大きな物語になっていく。

未来で映画が無くなるのは「他人の物語に1分以上の時間を割くことがなくなったから」「2時間の映画なんて必要とされなくなったから」だと言う。果たしてこれはフィクションだろうか。
パンデミックによってあらゆるものの必要性や優先度が変わった。守らなきゃいけないものに優先度が勝手につけられた。優先度が低いものは少しずつ消えていった。その多くは映画であり音楽であり、広くは娯楽や芸術と呼ばれるものだった。
「TENET」や「鬼滅の刃」の効果で劇場に人は戻り、事態は回復したかのように見える。本当だろうか。
「ブラックウィドウ」に始まり、「007」「トップガン」「ワンダーウーマン」と数多くの大作は公開が見送られて来年の公開すらままならないことも予想される。海外で生まれた映画を各国に配給することを仕事にしている人たちはどうなるだろう。映画館はもちろんのこと映画にまつわるあらゆる人が逼迫している。果たして1年後、2年後、あるいはもっと先に「映画」はあるだろうか。
くさす訳ではないけれど身のこなしが軽いディズニーは早々に公開予定だった「ムーラン」「ソウルフルワールド」を劇場公開ではなく配信のみで公開することを決めた。おそらく今後そういう動きが他でも多くあるだろう。
「映画」とはなんだったのか。


劇中でハダシは考える。
「どうせ未来で映画が無くなってしまうなら、自分が映画を撮る意味ってあるのか?」「過去に生まれた傑作がこんなにあるのに、自分が映画を撮る意味って?」
これは"決定論"に抗う物語でもある。生きていくためには必要じゃないけど、それでも自分にとって必要なものがあるでしょ。人が何かを創って、残すってやっぱ必要でしょ。そんなメッセージを映画全体のラストへの向かい方で身をもって今作は提示する。鮮やかに着地するかと見せかけたラストで映画は180°傾き、バランスを失っていく。それはまるで決定された未来に抗うかのように!最高!!!

と、もはや盲目的に大好きな映画なのだけど冷静にやっぱり足りないところがあるのも事実だと思う。
長編初監督ということもあるのか、全体にどこか冗長な感じは否めない。主演の伊藤万里華を魅力的に撮るという意味では撮影は抜群。短編ドラマ「ガールはフレンド」然り、彼女の少年性とも言える中性的な魅力や表情の豊かさ、殺陣で見せる軽やかな身体性が見事にカメラに収まっている。「ライトブルー」MVを想起させるワンカットのカメラ移動も良い。しかし、俯瞰のショットはハッとさせれるところがない。特に橋から川に飛ぶシーンなんて絶対もっともっと美味しく撮れるはず。編集も然り。
三浦直之の脚本も素晴らしいけれど、どこか演劇やドラマを抜きでないというか、やっぱり台詞で言いすぎている感は強い。特にラストは明らかに喋りすぎ。流動する感情は言葉にされるとたちまち固体になってしまう。特に映画においてそれはすごくもったいない気がする。

とはいえ!とはいえ好き!大好き!!!もうそれだけでいい。この映画を見れてしあわせ。ここまで読んでる人は一人もいないだろうけど、来年全国公開されたらみんな一緒に見よ!!!!