Ninico

ヘルムート・ニュートンと12人の女たちのNinicoのレビュー・感想・評価

4.2
「形を撮っているんだ。モデルの顔や、胸や脚を撮っている。魂なんてよしてくれ。」

極めてファッションフォトグラファーらしい発言である。
しかしヘルムート・ニュートンがモデルや洋服の表層を美しく描き取る写真家だったかというと、そうではない。
その作品はコンセプチュアルで、フェミニズムの文脈において社会派の写真作品として芸術性を語られることも多かった。彼が写真で表現したメッセージは、被写体の表層の美しさを超えた部分で成立していた。そういう写真家であるからこそ、ヘルムート・ニュートンのファッション写真は高尚で価値が高く見えたし、作品や展示はこの日本においても常に影響力があった。

映画の中で、スーザン・ソンタグとヘルムート・ニュートンが対話する場面がある。
ソンタグは「私は作品と人物は同一視しない」と前置きした上で、ヘルムート・ニュートンの作品は女性蔑視的だと批判し、それに対してニュートンは女性は大好きだと反論する。
更なるソンタグの反撃の内容はもはやヘルムート・ニュートンへの人身攻撃ともとられかねない内容ではあるのだが、機知に富んだ二人の会話が見られる。

この場面だけではなく、他の出演女性たち(モデル、ジャーナリスト、妻)も皆、ヘルムート・ニュートンの写真について、自分の視点で語るべき言葉を持っている。
彼の作品が意味深かった時代的な背景も理解した上で、各々のボキャブラリーで彼との作品や彼の作家性について女性たちが語っている姿は、眺めているだけでもこの映画の芯の魅力が伝わってくる。

ただ自分が美しく撮られて有名になりたいといったおバカなモデルなら、こんな風に写真家の仕事について共感したり意見したりすることはないだろう。

ファッションと文化は今より密接で、芸術、音楽、文学、映画について語れるインテリがファッション業界にも沢山いた。そういう文化的に成熟した(とても面白かった)時代と、ヘルムート・ニュートンのことが一つの映画として記録に残っているというだけで、私は嬉しい。

編集や音楽もとても良いので、いつか自宅で流し見などしたい。
Ninico

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