慶應卒、野村芳太郎監督一流の、痛烈な皮肉がきいた戦争映画。朗らかに、軍隊生活を描きながら、底流では徹底的にバカにしている。
「恐れ多くも天皇陛下におかれましては」
と言うだけで、背筋を伸ばす軍隊を何度も描写し、皮肉っている。
主人公・渥美清は孤児であるがゆえに、三食くれる軍隊生活を「天国」と称している。実際、軍隊生活は暴力の温床になっているが、渥美清は気にしない。
そのため、戦争が終わりそうになると、天皇へ向けて戦争を終わらせないよう手紙を出そうとする。本来、人が死ぬ場所にもかかわらず、軍隊が自分の生きる目的になっている倒錯具合が面白い。フォレストガンプを思わせる。
そして、軍隊に入るまで、関心すら払っていなかった天皇に対して、異常なまでの敬意を表し始めるのだ。
戦後は、自分の友人や妻のために生きようと努力するが、やっていることは戦前と変わりない。
徴発と称して、他人の鶏を盗んだり、死体を担いで運んだりしている。
天皇陛下のために、命を燃やしていたのが、友人や恋人に変わっただけである。だが、前半と後半で全く違う人物に見える。
組織や空気に流されるまま、自分の大切なもののために、生きようとしただけなのに、全く違う人生が展開されてしまう不条理。
こんな戦争映画の視点、平成世代の自分には決して持つことはできない。
その時代にしか作れない文化が確かにあるが、ホンモノの太平洋戦争映画はもう二度と作れないだろう。
顔の日焼け、シワの入り方、軍服の汚れ、言葉回し、そのどれもが素晴らしく、現代の映画は到底及ばない。
安っぽい悲劇としての戦争映画はもう飽き飽きだ。1940年代前後をテンプレートで暗い時代と描くことは、かえって戦争をバカにしているようにしか思えない。
そういった意味でも、この戦争映画は白眉。
素晴らしい映画だった。