Leaf

林檎とポラロイドのLeafのネタバレレビュー・内容・結末

林檎とポラロイド(2020年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

ヨルゴス・ランティモス監督作品で助監督を務めたこともあるクリストス・ニコ監督の初長編作。
舞台設定からしてさもありなん感じを受けつつ鑑賞。
そして拝見した今日はたまたま制作総指揮に名を連ねるケイト・ブランシェットの誕生日だそう。
内容は良かったけど、感想はネタバレつけないと無理。

なんの前触れもなく記憶がなくなるという病気が蔓延する世界。
バスの中で記憶を無くしたと思われる主人公が、運ばれた病院に誘われるがまま"新しい自分"を探すプログラムを受ける様子を映す。

と、書いてみたものの個人的にはそもそもこの記憶を無くしたっていう部分から違うと思った。
最初に頭打ち付けてる場面からは忘れたい記憶があることを彷彿とさせ、その後流れてくる"新しい自分"プログラムの紹介。途中で知り合いになりそうな犬の飼い主との邂逅は回避し、記憶力にいいと聞くやいなや大好きな林檎もノーバイ。
記憶を消せないまでも記憶を上書きすることでこの辛さを和らげたかったんじゃないか?
ただ、途中で記憶が完全に戻ったのかもとも思わせるところもあって、どっちでも取れそうな感じがなかなかうまい。

ただ記憶残ってた方が、
記憶があるのに記憶なくなった人が受ける治療を受けて、"新しい自分"を探そうとする過程で"過去の自分"を受け入れるっていう構図になるので個人的にはかなり好き。

プログラムの内容自体は映像も相まってかなりシュールで笑いを誘う。
ただ全体的には寂しさを湛えながら淡々と進んでいくのに、優しさを感じさせるバランス感覚が素晴らしい。
ポラロイドカメラやカセットテープとか、一昔前のアイテムを使うことで機械的っぽい最新技術とは違う暖かさを感じさせてくれたのかもしれない。

りんごを愛し、どこか女性を嫌がり、ほぼ他人の老人の死に涙し、掃除中の廊下では踵だけで歩く彼の様子から特にバックグラウンドが語られることのない人間性を窺い知れる。
辛い、都合の悪い事を忘れられるのは便利かもしれないけど、それを受け入れた彼みたいな人をすごく応援したいと思うし、個人的にはそうありたい。

途中の、デモで火炎瓶投げろみたいなきな臭い発言や同じ治療を受ける女性の発言からちょっと透けて見えた部分はあるけど、あのプログラムからどんな人間が出来上がるのかはほんの少しだけ興味ある。
ただそんなロクでもない人間が出来るかもしれないプログラムの過程で彼なりの答えを手に入れることができたのはとても良い皮肉だと思った。
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