記憶をなくした男。
そこは記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延する不思議な世界。
主人公の男は記憶喪失の患者として保護される。
家族からの捜索願いも出ていないため、病院の勧めで治療のための回復プログラム「新しい自分」に参加することに。
新しい部屋を与えられ、送られてくるカセットテープに吹き込まれた内容をもとに、自転車に乗る、仮装パーティで友だちをつくる、ホラー映画を観るなどをし、ポラロイドカメラで証拠(?)写真を撮る。
おかしなミッションだなあと思ったけど、自転車やセックスのように身体で身につけた行為を再現させたり、ホラー映画や自動車事故で張り詰めた感情を呼び起こしたり、人間関係を構築するためにパーティーに出向いたり…
なるほどな…と感心もした。
主人公の男は寡黙だ。感情も一切現さない。
「新しい自分」のために淡々とミッションをこなす。
だけど時々主人公の奇異な行動も目にする。
隣人の犬の名前を覚えていたり、人目を避けたり、突然好物のリンゴでなくオレンジを食べたり…
まるでミステリー映画の謎解きのように、終盤に主人公の奇異な行動の理由を理解する。
ああ、なんて切なくて悲しい物語なんだろうか。いっきに無機質だった主人公の気持ちに寄り添ってしまう。
どんなに悲しくても辛いことがあっても、人は前に進むしかないのかな。それは決して簡単なことではないけれど。