林檎は記憶力の低下を予防する果物と言われている。
司馬遼太郎が何かの書き物で言っていた『林檎〈りんご〉は日本語としての発音の響きが賞でて美し』自分も同感だ。
年齢を積み重ねるとともに記憶は永遠では無いことは身に染みて実感するが、昔観た好きな映画や俳優の名前がパッと出てこないことが増えて来たのはもどかしい。
しかし其れは記憶が消失した訳ではなく記憶を記録する脳内の記憶箱から出てこないだけで悲観する必要はない。
そのうち忘れていることすら忘れてしまう日がいつか来るだろうから。
多くの人々は過去の記憶を失うことが悲しいとか寂しいとか思うかも知れないが、過去の記憶を消したいと思うくらい辛い思いを抱く人々も多くいる。
この映画はある日突然バスの中で記憶喪失になってしまう男の物語、社会復帰プログラムを課せられ淡々とこなす…、中身はシリアスでも描写はコメディ。
主人公は記憶を取り戻す為に〈林檎〉を食べているのか果たして其の真意は善悪を知る禁断の果実〈林檎〉を頬張る行為にあらず、失われた記憶を蘇らせる為の〈林檎〉ではなく《戻らなくていい》エデンの園のイヴへの贖罪回帰ではないか。
記憶が戻って幸せなのか戻らない方が幸せなのか、絶望は全てを消し去る。
既に観てから時間が経っているので記憶が曖昧です..★,