ゲイリーゲイリー

ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけているのゲイリーゲイリーのレビュー・感想・評価

3.0
"idontwannabeyouanymore"で、今にも壊れそうな繊細さと悲痛さを訴えかける力強さが絶妙なバランスで混在した彼女の歌声と、偽ることなく綴られた自己嫌悪へのリリックに心を掴まれてから3年。
私が知った当時でも人気歌手ではあったのだが、まさか3年後にドキュメンタリー映画が公開されるほどの世界的人気歌手になっているとは想像もつかなかった。

本作は楽曲制作の裏側やライブパフォーマンスの舞台裏までしっかりと撮影されており、ファン垂涎の作品となっている。
個人的に大好きな「bury a friend」が完成系へと近づいていく様は見ていて大興奮。
ビリー・アイリッシュはもちろんのこと、兄のフィニアスの天才ぶりも遺憾無く発揮されており、この兄妹が如何に並外れた存在であるかを再認識した。

しかし、いくら天才アーティストとはいえ彼女は10代後半の女の子。
恋人との電話で一喜一憂し、車の免許を取得してはしゃぐ子供なのだ。
いくら自分の世界観を確立していようと、どれほど素晴らしい楽曲を世に送り出そうと、世界中の同世代から崇拝されレーベルからは大切な稼ぎ頭として持て囃される現状は、たった1人の子供が背負うには重過ぎる。

彼女の歌で救われた子供たちは大勢いるだろうが、果たして彼女の歌で彼女自身を救えるのだろうか。
コーチェラという大舞台でパフォーマンスしようとも自身の出来栄えに全く納得がいかず自己嫌悪に陥る姿や、ファンの期待に応えるべく無理をする姿はとても痛ましい。

憧れのジャスティン・ビーバーとの出会いや、グラミー賞主要4部門受賞などの歴史的快挙を成し遂げるなどの出来事は彼女にとって少しでも救いになったのだろうか。
セカンドアルバムの発売を控えた今現在彼女の目に映る世界は、まだぼやけているのだろうか。