こたつむり

あの夏のルカのこたつむりのレビュー・感想・評価

あの夏のルカ(2021年製作の映画)
3.9
♪ ほんとのことが知りたくて
  嘘っぱちの中 旅に出る
  イルカが手を振ってるよ さよなら

知的好奇心を全肯定する映画。
と見せかけておいて、本当の見どころは“イタリアの空気感”だと思いました。青い空、澄んだ海、薫る風、白と茶色の街、殺菌するように突き刺す太陽。

あー。イタリアに行きたい。
あー。地中海を満喫したい。
「これはレモン味をベースにしたパスタで、地元民はよく食べるのです」なんてガイドさんの説明を聴きながらパスタを味わいたい。そして「観光向けじゃないから安っぽいんだな」なんて思いたい。

そんな“空気感”を裏付けるのが繊細なビジュアルですね。是非とも、主人公のルカが初めて陸地に上がった場面の“石”を観てほしいんですが、乱雑で整然としていて、秩序的でいて混沌に満ちていて、踏みしめた感触が伝わってくるんですよ。

まさに神は細部に宿るんですね。
そして、それを感じたのは海の中も同様。
リアリティとデフォルメのバランスは、まるで『崖の上の×××』。特に“オサカナさん”たちは確実に日本人好みだと思います。ぬいぐるみがあったら欲しいレベルです。

あと、イタリアの空気感と言えば。
現地っぽさを活かした“吹き替え”も見事でした。ぶっちゃけた話、速すぎて付いていけないセリフもあるんですけど、その辺りはスルーが吉。要は“空気感”を味わえれば良いのですから。

ただ、その分、物語として浅いのも事実。
でも、目新しさとか分厚さとか、そういう凡百な価値観に囚われるよりも、良い部分に目を向けたほうが得だと思います。何しろ、ピクサー初の“夏”らしいですから。

まあ、そんなわけで。
安定のピクサー印が押された物語。
ちなみに着目したいキーワードは「ベスパ」と「あ、兄さん」ですかね。特に後者は一瞬なので見逃さない(聞き逃さない)ように。何しろ、神は細部に宿るのですから。
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