しん

皮膚を売った男のしんのレビュー・感想・評価

皮膚を売った男(2020年製作の映画)
4.0
まず目の付け所が秀逸です。難民が「難民」として人格を持つ限り、移動の自由はありません。しかしアート作品として売買の対象となった瞬間に、圧倒的な移動の自由を得ます。この皮肉な状況に目を向け、難民の人権、アート市場のいびつさを描き出した名作です。

本作は安易な結論を示しません。その姿勢が「自由」の意味を問いへと昇華し、観客を揺さぶります。「人権」とは何か、当人は何を望むのか、周囲はどう振る舞うのか。一筋縄ではいかない作品を、ここまで大衆受けする形に落としこんだのは、称賛に値します。

また主人公の悲惨さや過去を無駄に掘り出さなかった潔さも評価できます。彼が素晴らしい/ダメな人間だからこの問題が生起したのではありません。アートや難民をめぐる構造が根本にあるのです。人にフォーカスし過ぎない潔さが、むしろこの構造のいびつさを際立たせています。
100分で纏めあげた手腕も含め、相当の名作でしょう。
しん

しん