ヒノモト

鈴木さんのヒノモトのレビュー・感想・評価

鈴木さん(2020年製作の映画)
3.8
現在開催中の東京国際映画祭から、気になる作品を観て来ました。
数ある上映作品の中からチョイスするのは難儀でしたが、主演が芸人のいとうあさこさんという点と、紹介文の「ディストピアSF」に引っ掛かって、観にいく事を決めました。
 
 
観終わった率直な感想は?
ヘンテコだけど、考えさせられる映画だったという事です。
 
ヘンテコというのは、設定の事で、
映画は、カミサマと呼ばれる絶対的な存在の肖像画から始まり、45歳までに結婚しないと軍隊に参加しないと町を追い出される制度、村社会で新参者を排除するような空気感、若者が尊重され、中年以降は蔑ろにされる世代間格差、戦争状態にあり敵国の工作員を警戒する放送。
 
そのような舞台背景で、ラブホテルを再利用したようなグループホームで老人たちの世話に勤しむヨシコの前に現れた、「鈴木」という男が、ヨシコの心の中に静かに受け入れられていく。
 
クライマックスのそれまで全く予想のつかないような展開に、呆気にとられながら何とも言いにくい複雑な気持ちになるエンディングへと着地しました。
 
 
上映後のトークで監督もおっしゃってた「集団と個人」の問題。象徴的に描かれていて、今年話題になったSNSの個人攻撃だけでなく、もっと社会の根深い所まで、深い闇が垣間見えました。
 
鈴木役の佃典彦さんの演技が光っていて、主演のいとうあさこさんも笑いを一切封印して、中年のもどかしさを見事に演じられていました。
 
どこかねじ曲がった社会背景は、現代にもリンクし、今年観るという事も意味がある貴重な時間でした。
 
早く正式の上映が決まって欲しいと強く感じました。
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